目からウロコの認知症ケア、白熱教室で加藤忠相さんが熱弁~「尼崎発 認知症革命!」イベントリポート②~

【「尼崎発 認知症革命!」初日イベントリポート②】

 5月11日に尼崎市商工会議所で行われた「尼崎発 認知症革命!」と銘打ったセミナーイベント(主催:医療法人社団 裕和会 長尾クリニック)。当日の報告の2回目は、国立(こくりゅう)認知症大学 特別講座「マニュアルのない認知症ケア~利用者もあなたも幸せになる介護のコツ とことん教えます~」。

 

加藤忠相さんに聞く「マニュアルのない認知症ケア」

 

講演する加藤忠相さん

 講師は、神奈川県藤沢市で認知症グループホーム「結(ゆい)」や、通い・訪問・宿泊を一体的に提供する小規模多機能型居宅介護事業所「おたがいさん」などを展開する㈱あおいけあ代表取締役、加藤忠相(ただすけ)さんだ。加藤さんは2012年に「かながわ福祉サービス大賞~福祉の未来を拓く先進事例発表会~」大賞を受賞。テレビや新聞などのメディアなどで「介護業界で注目される人物」として取り上げられ、昨年公開された映画「ケアニン~あなたでよかった」のモデルにもなった。

 プロの医療・介護職を対象にした2時間の講演だったが、関心のある市民も多数参加。目からウロコの実例や取り組みの紹介を、来場した160人は食い入るように聞いていた。

 

■良い介護とは何か? ベースは介護保険法

 

 最初に加藤さんは「経営者はよく『良い介護人材がいない』と言うが、何をもって『良い介護人材』というのか?」と投げかけた。プロジェクターは介護保険法の条文を映し出す。が、一部はテスト問題のように(  )の中を穴埋めするかたちになっている。

 

(介護保険法)

第二条 第二項

前項の保険給付は、要介護状態等の(  )に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行わなければならない。

 

 この(  )には、軽減または悪化の防止が入る。加藤さんは言う。

「ケアとは何か? まずは①回復を目指す ②現在の機能を保つ ③最期まで寄り添う、ではないか」

 

第四項

第一項の保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その(  )において、その有する能力に応じ(  )を営むことができるように配慮されなければならない。

 

 最初の(  )には居宅、2番目の(  )には自立した日常生活が入る。

 「福祉から社会保障へ。2000年に介護保険法が生まれた時、この法は『走りながら作っていく法律』といわれた。サービスを受ける被保険者のニーズに応じる中で、質の高い介護を作っていこうとした。第四項『居宅において能力に応じて自立した日常生活を営む』を見ると、介護保険法は成立時から地域包括支援の必要を謳っていた」

 

■目の前のお年寄りに何をしたらいいか考える

 

 早口でポンポンと繰り出される言葉は明解で迷いがない。そして、ある事例を紹介した。すい臓がんで余命半年と言われ、9月に来所した要介護度1の男性。「俺は死ぬまで自分の足で歩く」と一日7000歩を歩いていた。支えていた妻が先に他界し、本人の状態も悪くなり、いよいよ……となった時、男性は、以前家族で泊まった伊豆の温泉に行きたいと希望した。スタッフから加藤さんのもとへ届いたメールは「今から温泉に行ってきます!」。男性とスタッフは温泉に泊まり、夕食を平らげビールで乾杯し楽しい時間を過ごした。5日後、男性はその人生に幕を下ろした。

 

 「僕はスタッフに『加藤に相談してOKと言いそうだったら、迷わず実行しろ』と伝えている。介護職員の仕事は考えることだ。目の前のじいちゃんばあちゃんに何をしてあげたらいいか、今何が必要か。その人の生い立ちや性格、職歴などを知ったうえで、その場で考えて動けることが大切だ。こう言うと『何かあったらどうするんだ?』という人がいる。だが、介護は何かあるのが仕事だ。リスクばかり考えていたら、人生の喜びや楽しみを奪ってしまう。介護現場におけるリスクマネジメントは、本人や家族との信頼関係を構築することだ」

 「働くことにはステージ(段階)がある。労働は報酬が目当て。仕事は何かの役に立っていると理解できること。活動は自分がやりたくてやっていること」

 

■困っている認知症の人を困らせないために

 

 「認知症って何ですか?と聞かれたら、専門職ならちゃんと説明できなければダメだ。認知症は腹痛や頭痛と同じ“症状”であって病名ではない。何らかの病気が原因で脳の細胞が死に、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の障害などが起こる。認知症の人は基本的に、これまでの自分と違うことに困っている。アセスメントに基づいて、いい環境といい心理状態を作り、その人が困っていないようにするのが専門職のケアの仕事だ」

 「認知症の人は見当識障害があると知っているのに、スタッフは全員同じユニフォームを着ている。そんなんでいいんですか? 本来、介護職に就こうという若者たちは、じいちゃんばあちゃんが好きで、人の役に立ちたいと思っている心優しい人たちだ。ところが、マニュアル通りの管理的業務、定時の食事やトイレ、カギをかける、向精神薬処方など、到底ケアとは言えないような仕事に幻滅して辞めてしまっている」

 

 加藤さん自身、大学を出て働き始めた横浜の特別養護老人ホームで、介護現場の現実にショックを受け、3年後に退職した経歴を持つ。2001年に株式会社あおいけあを設立後、揺るがぬ志と実践と工夫の積み重ねで、今日の地域に開かれた場が出来上がった。

 敷地に塀はなく、中央の私道は地域の子どもたちや住民が行き交う。施設の建物の中には地域と施設に食事を提供するレストラン「菜根や」、カフェ「亀井野珈琲」、子どもたちが自由に遊べるスペースも入る。ここでは高齢者は、「地域の資源」だ。

 「僕たちは、お年寄りたちに散歩に行こうとは言わない。『地域の清掃活動を頼まれているので、申し訳ないけれど一緒に行ってくれませんか』と言うと、『しょうがないなあ』とゴミ挟みとポリ袋を持って出かけてくれる」

講演後には長尾クリニック院長の長尾和宏院長とのトークセッションも

 講演後には会場から「話を聞いてモヤモヤがどんどんほどけていく感じがした」「一職員として明日から何をしたらいいか考えたい」などの発言があった。加藤さんは「僕のところだけが特別ではない。思いを同じくする施設は、大阪や京都にもできている。少子高齢社会のフロントランナー・日本を、世界が見ている。自分がなぜプロになったのか? 目の前のじいちゃんばあちゃんがどうやって生きてきたのかを考えることから始めてほしい」と結んだ。

 

 あおいけあのホームページはコチラ http://www.aoicare.com/

 

 ●「尼崎発 認知症革命!」イベントリポート①高井隆一さん講演会はコチラ http://www.asahi-family.com/news/13060




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