大学入試改革で、子どもの未来はどう変わる!?

 大学入試が2020年度(現中3生が高3の時)から大きく変わります。現行の大学入試センター試験に代わって、大学入学共通テストがスタート。記述式の問題が加わり、英語は「聞く・読む・話す・書く」の4技能評価へ。保護者が押さえておきたいポイントを探りました。(鈴江元治)

親世代の「常識」は通用しない!?

ロボット作りを活用した小学生のプログラミング教育 「親が受けた大学入試とはガラッと変わることをまずは認識してください」。入試事情に詳しいベネッセ教育総合研究所の小泉和義副所長は、きっぱりと釘を刺す。人工知能(AI)などの技術革新やグローバル化がさらに進み、子どもたちが今後生きる社会は想像を超えて大きく変わる。ロボットやコンピューターが台頭し、いまの職業がいつまでも存在する保証はない。小泉氏は「必要になるのは、複雑化する課題を自分で発見し、周囲の人と段階を踏みながら、一つでない答えを導き出す力。従来のように何を覚えているかではなく、知識や技能をどう使うかを問うために、大学入試は変わるのです」と話す。

新・小6生から“正念場”に!?

小泉和義・副所長 大学入試改革は、そこに続く高校、中学、小学校の学習も変える。文部科学省が教育の中心に置くのは、思考力、判断力、表現力の育成。小学校では論理的思考力に役立つとされるプログラミングも導入され、国際化時代に向けて、英語の必修化も始まる。「英語の『聞く・読む・話す・書く』の4技能は、学力やコミュニケーション力など知識・技能のすべてを包括します。春から新・小6の児童が大学受験を迎える24年度には大学入学共通テストの英語は民間試験に一本化されるなど、ダイナミックに変化します」と小泉氏は注目する。
 入試で求められる学力が変わり、子どもも保護者も新制度への対応を迫られる。小泉氏は「未来を変えるのは子どもたち。日本がさらに住みやすい国になるチャンスだと考え、保護者も積極的に情報収集してほしいですね」とエールを送る。

 

変わる大学入試 小中学生の学びはどうなる?

 大学入試はどのように変わり、また保護者が知っておきたいポイントは何でしょうか。
現状で決まっている変更点と課題についてまとめました。

思考・判断・表現の力を重視

 大学入試改革は、グローバル化や人工知能の開発が進む中、日本の「学力」が今のままでは世界に置いていかれるのではないかとの危機感を背景に議論が進んできた。
 「一点刻み」の知識偏重を脱し、高校と大学をもっと多層的に結びつけるとの狙いから、当初は基礎力を測るテストを高校時代から生徒に複数回受けてもらうなどの案が浮上した。しかし、「高校が大学の予備校になる」といった反対論が根強く、最終的に2020年度から、新しい学習指導要領が掲げる「思考力・判断力・表現力」を一回で測る手段として、記述式の導入や民間事業者の活用などを目玉にした「大学入学共通テスト」の開始で決着した。

記述式を導入 難易度は上がる!?

写真 大学入学共通テストは、春からの新・高校1年生が大学受験する21年1月からスタートする。ただし、全教科が一度に変わるわけではない。選択肢から正解だけを選ぶマークシート式に加えて、記述式の問題は20年度に国語と数学で導入され、24年度から地理歴史・公民・理科の分野でも始まる見通しだ。
 昨年12月に公表された共通テスト試行調査の問題では、国語で計3問を記述式で出題。高校生の生徒会活動を題材に、会話文や複数の資料から情報を読み取り、与えられた条件をふまえて考えをまとめる力を問うた。数学も日常生活に近い題材を使い、数学的な考え方と思考の過程などを数式で記述させる問題が目立った。
 どの教科も問題量が増え、解答に時間がかかったためか、参加した高校生の正答率は従来のセンター試験に比べて、低い傾向が見られた。実施主体の大学入試センターは、今後も試行や検討を重ねる方針だ。

英語に民間試験 国際化の担い手に

大学入学共通テストの導入スケジュール 共通テストの導入で、最も大きく姿を変えるのが英語の試験だ。世界の人々と堂々と渡り合える人材の育成をめざし、コミュニケーション能力を重視。「聞く・読む」に偏っていたテストを、「話す・書く」を加えた4技能を評価する方向に変える。
 ただし4技能を一度の試験で測るのは難しい。そこで英検やTOEIC®などの民間試験の成績を大学入試に活用することが打ち出された。ただし、それぞれの試験は目的も成績の指標も異なる。そのため、欧米を中心に使われている国際標準規格「CEFR(セファール)」に置き換えた上で、出願先の大学にデータを提供する方法が考えられている。
 20年度から23年度はセンター作成の試験と民間試験を併用。春からの新・小6生が大学受験を迎える24年度から民間試験に移行するため、現在小学生を持つ保護者の関心も高い。試験ごとの公平性の確保や、民間試験の受験料負担などに対して懸念する声は多く、本格導入には紆余曲折(うよきょくせつ)がありそうだ。

 

いま必要な視点は? 未来の可能性広げるチャンス

 大学入試改革に必要な視点を、3月12日(月)の教育セミナーに出演する塩瀬隆之・京都大学総合博物館准教授に聞きました。

塩瀬孝之氏 目まぐるしい技術革新と環境変化を前に、陳腐化する知識や技能が増えてきました。それに対するここ数十年の教育内容や方法の変化は十分とは言えません。重箱の隅をつつく暗記中心の従来の勉強方法から、幅広い教養や考える力を重視する学習方法へ、社会の要請は大きく変化してきています。
 子どもたちには、自分で環境を変える力、価値観が同じでない人とも協力して前に進める力が大切になってきます。
 大学入試改革は従来の教育と学習の良い点と改善すべき点の境界線を見極めるチャンス。子どもの可能性を不本意に狭めてしまわないように、大人は古い価値観を押し付けない心構えを持ちたいですね。

地域の有力校 対応は?

 地域の有力校は大学入試改革をどう見ているのでしょうか? 灘中学校・高等学校(神戸市東灘区)と神戸女学院中学部・高等学部(西宮市)を取材しました。

和田孫博氏

技能を生かす教養こそ必要

和田 孫博 氏(灘中学校・高等学校 校長)

 大学入試改革によって、生徒の主体的に学ぶ力や考える力に注目がいくのは良い方向です。記述式問題が増えると、採点者の質も問われることになります。現場の意見を積極的に取り入れ、切磋琢磨(せっさたくま)して良い制度ができることを願っています。
 また、4技能が重視される英語は、いくらあいさつができても、次に何を話すのかが肝心です。そのためには真の教養が必要。高校で教えるリベラルアーツの重要性は揺らぐことなく、本校も指導や入試の方針をすぐに変えることは考えていません。
 大学入試は登山に例えれば人生のまだ3合目。長い人生を過ごすために、正当な評価が受けられる改革であってほしいですね。

 

林真理子氏

主体的に学ぶ姿勢を大切に

林 真理子 氏(神戸女学院中学部・高等学部 部長)

 本校は創立以来、幅広い一般教養を深く身につけ、自分でテーマを決める探究活動や発表、体験型学習を通して、主体的に学ぶ姿勢を育んできました。昨今の改革論議で話題にのぼる「アクティブラーニング」は、本校が培ってきた教育と重なる面が多いと感じています。
 大学入試改革で導入される英語の「4技能」では、時間的制約の多い中、話す力までをどこまで正しく評価できるか、少し疑問を持っています。民間試験の活用では費用を含めた公平性、客観性も課題となるでしょう。
 欧米のように、大学が理念を明確に掲げ、受験生自身がそこで何を学びたいのかを具体的にアピールできるような入試が増えると良いと思います。




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