【précieux 京都】#10 絶品パンケーキとMLESNA(ムレスナ)の紅茶。密かな楽しみ
ほそつじいへえ TEAHOUSE supported by MLESNA=京都市東山区四条通大和大路東入祇園町北側242 2F

precieux京都

 さて7月。祇園囃子の音が街にあふれ、京都のうだるような暑さを予感させる日差しが降ってくる。祇園祭は八坂神社の祭礼。鉾町(祭りで鉾が建つ狭い地域を、京都ではこう呼ぶ。各地域の住民が祇園祭の鉾を維持し、巡行に携わる)に縁があるので「八坂さんにお参りにいこか」と四条通りを歩いた。
 四条通りは河原町通りと並び、京都を代表する目抜き通りでもあるので、観光客であふれかえる。なぜか抹茶を中心とした甘党の店が多いのも、そのせいだろう。暑いからソフトクリームか、かき氷でも、と思いたっても簡単に入れる状態ではなく「2時間待ちです」などと涼しい顔で言われるのにも慣れてきた。
 とはいえ、歩道にあふれる長蛇の列をかき分けるたびに、だんだん機嫌が悪くなっていく。

 

ほそつじいへえ TEAHOUSE 店内の様子
コースターなどもすべて永楽屋細辻伊兵衛商店のオリジナル
手ぬぐいギャラリーも兼ねている。
手ぬぐいギャラリーも兼ねている。

 その時、背後から名前を呼ぶ声がした。振り返ると、先日、取材させていただいた(#9参照)細辻伊兵衛さんが立っていた。「ああ、そうやった、伊兵衛さんとこがあったわ」ということで永楽屋細辻伊兵衛商店【祇園店】の2階ティールームへ。店の入り口は四条通に面しているものの、1階の手ぬぐい店に入ってから階段を上がる。歩道に掲げられたティールームの看板表示が控えめ。長蛇の列はできにくく、地元の人を中心としたファンが通う、貴重なティールームとなってきた。

抹茶パンケーキの焼く様子
焼き上がるまで25〜30分。時間に余裕が無い、短気という人は別のものを注文したほうがいい。

 ファンとは、何のファンなのか。注文が入ってから焼くパンケーキ、そしてスリランカの有名な紅茶ブランド「MLESNA(ムレスナ)」の紅茶だ。

 まず、パンケーキ。卵は丹波のカンナンファーム「やまぶき卵」を使う。カンナンファームでは、40余年かけて作り上げた遺伝子組み換えや化学合成飼料を使わない餌を鶏に食べさせている。白味の透明度と黄味の濃厚さがすばらしく、卵特有の臭みもない。スイスのジボタン社の天然香料、サトウキビから作られた洗双糖、抹茶は永暦元年(西暦1160年)創業で豊臣秀吉も愛した宇治の老舗「通圓」から有機抹茶を取り寄せる…聞いただけで原価率の高さが心配になるほどだ。

奇跡の抹茶パンケーキ
小豆、ホイップ生クリーム、バターをグチャグチャに混ぜるのが京都流。しかし、トッピングなしで、本来の素材の味を楽しむほうが好き。
「奇跡の抹茶パンケーキ」は「おおきめ」(直径14cm)が1,836円、「ちいさめ」(直径11㎝)が1,512円

 丁寧に作ったパンケーキの生地を、試行錯誤の末に完成したオリジナルの2㎝もある銅板と、高さ2.5㎝の円筒を使いスタッフが焼き上げる。25分待って出てきたホカホカのパンケーキの表面は茶色。これに戸惑う人もいるらしい。「ほんまもんの抹茶生地は焼けたら表面は茶色になる。焼き菓子の表面が抹茶色のままなのはおかしい。自分自身が美味しいものを食べてゆっくりしたいなら、こんな店が理想、と思って開いたので、こだわりは強いのです」と伊兵衛さん。フォークを入れる瞬間はサクッと割れ、中からしっとりとした生地が現れる。

 MLESNAはスリランカの高いクオリティの紅茶を世界に、とアンセレム・ペレラ氏が創業したブランド。茶葉の鮮度と品質にこだわるため、短時間の抽出でもしっかりと茶葉が広がり豊かな味わいになる。天然のフレーバーが豊かに香り立つ。その時の気分によって30種類ほどの紅茶から選ぶが、中でもスペシャリティ「テレジアFBOP」(ポットで1,296円)は、花のような香気にすっきりとしたのど越しで、後で渋みがグッと押し寄せてくる。紅茶好きにはたまならい旨みがある。
 
 数年前までは、四条界隈に、いくつかのひいきのカフェや甘党の店を持ち、そこでぼんやりと時を過ごすことができた。季節の和菓子や幼いころから変わらない味のケーキを食べながら、お茶を楽しむ。ゆったりとした時間が流れる店内で、続きが気になる本を開いたり、喜びをかみしめたり、落ち込んだ自分を慰めたりした。いまは、どこも人が溢れ、そういう時間を過ごすことは難しくなってきた。ここも、いつかは、そうなるかもしれない。さびしいなぁ。

パンケーキを頬張りながら、そんなことを考えた。

 

キャラメルアイスドルチェ
夏一番の人気は、夏期限定「キャラメルアイスドルチェ」1,620円。キャラメルティーのクラッシュアイスにバニラアイスとホイップ生クリームが乗っている。ここに自分で好みの量のミルクを注ぐ。

お土産に人気。MLESNAのキューブ型紅茶
お土産に人気。MLESNAのキューブ型紅茶

 

※価格はすべて税込
※ほそつじいへえ TEAHOUSE supported by MLESNA

京都市東山区四条通大和大路東入祇園町北側242 2F
TEL:075-551-3534
営業時間は午前10時半~午後7時 、年中無休

 


◆Writing / 澤 有紗

著述家、文化コーディネーター、QOL文化総合研究所(京都市上京区)所長。

京都、文化、芸術、美容、旅や食などなどをテーマに雑誌・企業媒体誌などの編集・執筆を担当するほか、エッセイなどを寄稿。テレビ番組や出版のコーディネート、国内外の企業の京都、滋賀のアテンドも担当。万博の日本館にて「抗加齢と日本食」をテーマに食部門をプロデュースするなど、国内外での文化催事も手掛ける。コンテンツを軸に日本の職人の技や日本食などの日本文化を「経済価値に変える」「維持継承する」ことを目的に、コーディネート活動を行っている。

主催イベントとして、日本文化を考える「Feel ! 日本 -日本を感じよう-」と、自分を見つめ直しQOLを高める「Feel ! 自分-QOL Terakoya Movement ? 」を定期開催。
https://www.qol-777.com

 

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