【PACファンリポート㉓佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2018】
やっぱりオペラは“総合芸術の華”だ! 7月20日に開幕した佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2018「魔弾の射手」は、ミヒャエル・テンメ(演出)、フリードリヒ・デパルム(装置・衣装)、ミヒャエル・グルントナー(照明・映像)ら世界水準の舞台づくりの名手たちによる見事な趣向と出演者たちの力量の高さが堪能できて、見終わった後の満足感と高揚感が後を引く素晴らしい公演だった。
序曲が始まる冒頭から、まるで映画「スター・ウォーズ」を彷彿させる。無言で演じられる森の中の出来事は、この後の物語の大きな伏線。他人の幸運をうらやみ、ねたむ心に潜む暗い炎が、悪魔と結託する時、人は道を踏み外し、大きな過ちを犯してしまう……。
狩人マックス(トルステン・ケール)は、農民のキリアン(清水徹太郎)にまで馬鹿にされるほど射撃のスランプに陥っている。恋人アガーテ(ジェシカ・ミューアヘッド)との結婚に兆し始めた暗雲に心が弱ってしまい、狩人仲間カスパー(髙田智宏)がもちかける悪だくみの言葉につい乗ってしまう。「射手の意のままに命中する魔弾を、深夜の狼谷で作ろう」と。
アガーテの父、護林官のクーノー(ベルント・ホフマン)は初来日。自信にあふれた重厚なバスの歌声が、マックスの苦悩に拍車をかける。初登場のヘルデンテノール、ケールは悪い結末を予想しておののき揺れ動くマックスの弱い心を繊細に表現。佐渡オペラ4度目の髙田は、昨年の「フィガロの結婚」の伯爵とは打って変わって不気味な悪役で登場し、不穏な空気を醸し出す。
暗転だけでスピーディーに訪れた第2幕、アガーテの部屋。制作発表会で「私の役目は一服の清涼剤」と話していた小林沙羅が演じるエンヒェンが、くるくるとよく動き、明るいムードをもたらす。初来日のソプラノ、ミューアヘッドは素晴らしい歌声をホールに響かせ、聴衆を魅了した。
再びの暗転の後、一番の見どころ、狼谷での魔弾の鋳造シーン。ここが怖い。怖すぎる。背景の満月と、髙田のカスパーの体当たりの演技が、物語のまがまがしさをけん引する。センターの舞台機構をフルに使った演出に度肝を抜かれた観客から「うわっ」と声が漏れる。悪霊たちのモダンダンスに翻弄され、気を失うマックス……。背筋にスッと冷気が走った。
25分の休憩をはさみ、第3幕の射撃大会当日。婚礼の日になるかもしれない日を迎えたアガーテが、悪夢を見たと涙に暮れている。エンヒェンが明るく励まし、花嫁支度が始まる。しかし純白のドレスをまとったアガーテに届いた花冠は、なぜか葬儀用のもの。不吉な予感を振り払い、エンヒェンは森の隠者(妻屋秀和)にもらった白バラで冠を作り始める。
射撃大会は、カスパーもマックスも3発ずつ見事に命中して大いに盛り上がっている。オットカー侯爵(小森輝彦)が「白いハトを打ち落とせ」とマックスに命じたが、その弾の行方は……。
オーケストラピットの佐渡芸術監督は、前夜祭で見せた自信を裏切らない初日の出来栄えに終始満足げな表情。スペシャル・ゲスト・プレイヤーは、ゲスト・コンサートマスターのベルンハルト・ハルトーク(元ベルリン・ドイツ交響楽団 第1コンサートマスター)、ヴァイオリンのペーター・ヴェヒター(元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラのシンシア・リャオ(ウィーン室内管弦楽団首席)、チェロのヨナス・クレイッチ(室内楽奏者、ウィーン室内管弦楽団首席)、ホルンのヨナス・ルードナー(トーンキュンストラー管弦楽団奏者)と五十畑勉(東京交響楽団奏者)。われらがPACは、コアメンバーのヴァイオリン14人、ヴィオラ・オーボエ・トロンボーン・ティンパニで各1人、チェロ・コントラバス各3人、フルート・クラリネット・バスーン・ホルンで各2人が登場した。
かつて「東海道四谷怪談」が夏にふさわしい“納涼演目”として盛んに演じられたように、今回の「魔弾の射手」の“ホラー・オペラ”ぶりも、連日の酷暑を大いに吹き飛ばしてくれる。7月24日(火)から29日(日)の千秋楽まで残り5公演=26日(木)は休演。このリポートを読んで「ぜひ見ておきたい」と思った人は、チケットオフィスに電話するかオフィシャルサイトからチケットの有無を確認してみて(芸術文化センターの会員なら14時の公演開始の2時間前=当日12時まで、インターネットでチケット予約が可能)。
Wキャストが確認できるオフィシャルサイトはコチラ http://www.gcenter-hyogo.jp/freischutz/
芸術文化センター チケットオフィス TEL0798・68・0255(10~17時・月曜休み)