宇治街道で角打ち。京都・山城の地酒を味わう
【宝屋】京都府・宇治
角打ちとは、酒屋の店頭で飲むこと。いろんな酒が並ぶ店内の片隅にある小さなカウンターで、なじみ客が軽いアテで飲む。地域に根差した酒屋ならではの独特な空気だが、思い切ってのれんをくぐるとこれが案外ハマるのだ。JR宇治駅の南側、旧奈良街道。古い街道も今はすっかり様変わりして、古民家を活かしたおしゃれなカフェや店が並ぶ。そんな中に、いかにもといいたくなるような酒屋「宝屋」がある。
飲み会のきっかけは、宇治の寺で開催されたライブだった。町おこしをしているボランティア団体が主催したもので、3000曲のCMソングを歌い、今は独自の音楽活動をしているミネハハがやってきたのだ。素晴らしい歌声の余韻を引きずりながら、そのまま打ち上げに参加して出会ったのが、音響を担当していた宝屋の宝田直さんだった。酒屋の店主が音響機材を操作していることが不思議だったが、店に立ち飲みスペースがあると聞いて、日を改めて集まることになった。
少し肌寒い夕暮れ、昭和初期からあるという立ち飲みカウンターで、一杯目は京都府城陽市の地酒「城陽」にする。一升瓶から注がれるグラスには一本の線があり、ここまで注ぐと100mlをいう目じるしになっている。このタイプのグラスは今はかなりレアものだ。灘の酒「桜正宗」の文字が入ったグラスで、京都・山城の地酒を飲む。だからどうなんだ、という気がするが、酒の席ではなんでも笑いにつながってしまう。
「酒屋なのでしっかりした料理はないですよ」と宝田さん。もちろんそんなことは折り込み済みで、近くで蕎麦を食べてきている。缶詰のオイルサーディンを選ぶと、少し醤油をたらして昔なつかしい石油ストーブで温めてくれた。そのうちに人が増えて、隣同士でなんとなく話が始まる。信金の支店長、テレビ番組の製作者、音楽家など、様々な人がご近所さんとしてつながっている。一日の締めくくりに、なじみの顔とよもやま話ができるっていいな。
宝田さんがギターを取り出して演奏を始めると、それに合わせてお客さんが歌い出す。譜面や歌詞カードなしということは、きっといつもの光景なんだろう。宝田さんは学生時代からバンド活動をしているミュージシャンでもあり、今もグループを組んでJ-POPやビートルズなどを演奏している。音響設備に詳しくPA同好会なるものを作っていて、そのつながりでイベントの音響を担当していたのだ。
世界遺産の平等院に行くこともなく、ただ角打ちだけに訪れた宇治。次は休日にゆっくり街を散策してから一杯ひっかけて帰ろう。
◆ MENU
日本酒 265円~
純米酒 330円~
純米吟醸酒 470円
缶詰 250円~
オイルサーディンの缶詰 500円
◆ Data
酒の宝屋
電話:0774-21-3238
住所:京都府宇治市宇治壱番16
営業:9:00~20:00ごろ
休み:日曜
◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 おいしい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/