【PACファンレポート㉞第117回定期演奏会】
2019-20シーズンの兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会の開幕に、佐渡裕芸術監督が選んだ曲はアントン・ブルックナー(1824-1896)の交響曲第8番(ハース版)。6月に下野竜也が指揮したブルックナーの交響曲第5番に続いて、大作を持ってきた。
新メンバーが加わったばかりのシーズンの最初に、難しいと言われる大曲を演奏するなんて大丈夫なんだろうか? 心配になって9月12日の公開リハーサルに駆け付けたが、第1楽章と第4楽章の演奏を聴いて、私の下手な心配は杞憂だったとわかった。舞台はぎっしり95人の大編成。佐渡芸術監督の若手演奏家育成の趣旨に賛同する各パートのゲスト・トップ・プレイヤーたちに鼓舞されて、PACメンバーたちが懸命に応えようとしている。心地よい緊張感の中のまとまりの良さは想像以上で、土曜日の演奏会が楽しみになった。
演奏会当日。9月14日土曜の開演前に登壇した佐渡芸術監督は、「今シーズンは6カ国から18人の新メンバーを迎えた。ウズベキスタンからは初めて、ポーランド、イタリアからも優秀な演奏家が来てくれた。当初の僕の予想を遥かに超えて、卒団メンバーが国内外のオーケストラで活躍してくれているので、客演するたびにPACに在籍していたメンバーに出会えているのが大きな喜びだ。新メンバーが加わったPACは先日、明石でベートーヴェンの『運命』を演奏して、昨日からはブルックナーの8番。昨日もとてもいい演奏会ができたので、今日も期待してください」と話した。
この日の演奏もメリハリの効いた好演だった。若い才能は、優れた演奏家たちにリードされると、持てる力を無限に発揮することができる。その柔らかな感性とほとばしる熱量に目を見張り続けた。ホルンとフルート、オーボエの美しいメロディーの相聞に陶酔していると、力強いティンパニの連打に続き、ダイナミックに金管が爆発する。その大音量を受け止めるための弦楽5部は、ヴァイオリンが総勢30人、ヴィオラが12人、チェロ10人、コントラバス8人。波のように繰り返される反復に、ぐいぐいと引き込まれ、時間を忘れてのめり込む。圧巻だった。
演奏時間は約90分。休憩なしで駆け抜けた佐渡芸術監督は汗びっしょり。演奏家たちも「やり切った」表情を浮かべて拍手を浴びた。
コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの横山俊朗(NHK交響楽団第2ヴァイオリン フォアシュピーラー)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロのオイヴィン・ギムゼ(元トロンハイム・ソロイスツ芸術監督、≪KONSTKNEKT)主宰者)、コントラバスのウルリッヒ・ウォルフとオーボエのクリストフ・ハルトマン(ともにベルリン・フィルハーモニー交響楽団奏者)、トランペットのハネス・ロビン(バイエルン放送交響楽団ソロ首席)、ティンパニのミヒャエル・ヴラダー(ウィーン交響楽団ティンパニ首席)。スペシャル・プレイヤーは、PACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)、バスーンの中野陽一朗(京都市交響楽団首席)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)とアンドレイ・ズスト(ベルリン・フィルハーモニー交響楽団奏者)トロンボーンの倉田寛(愛知県立芸術大学教授)。PACのOB・OGは、ヴァイオリンで7人、ヴィオラで1人、コントラバスで2人が参加した。(大田季子)