久しぶりに満場の拍手! 名曲「未完成」と「新世界」で心に刻まれた幸せな記憶~兵庫芸術文化センター管弦楽団特別演奏会~

【PACファンレポート㊸特別演奏会 PACオータムシンフォニー】

11月21日土曜、国の指針に従って久しぶりの満員の聴衆を迎えた兵庫県立芸術文化センターのKOBELCO大ホールは温かい拍手に包まれた(舞台から2列目までは使用せず)。この日の演奏会を指揮したのは、PAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)とは定期演奏会に加えて、モーツァルト・シリーズでも共演を重ねているオランダ生まれのユベール・スダーン。演奏曲はシューベルトの交響曲第7(8)番「未完成」とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。まさに芸術の秋にふさわしい、日本人好みのテッパンの名曲だ。

開演前の舞台では、ティンパニの池田健太とコントラバスのコアメンバー3人(奥田敏康、クリストファー・グラバック、コーディ・ローズブーム)とゲスト・トップ・プレイヤーの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)が入念に音合わせを行っている。You Tubeで公開されているPACメンバーの演奏動画「Meet-HPAC~リサイタルホールから~」(11月25日時点で22本が公開中)を視聴しているので、佐渡裕芸術監督による個々のメンバーの紹介やエピソード、メンバー本人の肉声を聞いて、私のPAC熱はヒートアップ! ますます彼ら・彼女らが愛しくなっている。

当日のパンフレット。PACメンバー、ヴァイオリンのイ・ジスの退団のお知らせが小さく載っていた。母国・韓国を拠点に活動するという。ありがとう、お元気で!

いちど無人になった舞台に、メンバーが登場してくると、客席から拍手が起こる。それがひときわ高まって登場したのは、コンサートマスターの豊嶋泰嗣。定位置について一礼した後、4階席まで満員の客席を静かに見上げた目は潤んでいて、早くももらい涙がにじんでくる。

来日して2週間の待機期間をホテルで過ごしていたマエストロは、演奏会の10日前にPACの公式ツイッター@hpac_orchestraを通じて「音楽を愛する皆さまへ」と題したメッセージを発信。愛する音楽家たちと音楽を創り、素晴らしい音楽を届けられる喜びを熱く語っていた。その、たくさんの思いが詰まった演奏は厳かに始まった。

 

シューベルトの死後に発見された「未完成」は、10代のころ好きで繰り返し聞いていた曲だ。リリックでセンチメンタルなメロディーが突然の激情の爆発で雲散霧消。その後ためらいながら、か細くもきっぱりと再び始まるリリックでセンチメンタルなメロディーを、揺れ動く未熟な自分に重ねていた気がする。懐かしさに胸がキュンとなりながら、多感なPACのメンバーたちは自分たちが紡ぎ出す音をどう聞いているのだろうと考えた。

そして、ドヴォルザークの「新世界より」。こちらも第1楽章から第4楽章まで、曲の流れを知っている。きっとそんな人が多いのだろう、前の席の紳士も音楽に合わせて体を揺すっている。プログラムに「何度も聴いて知ったつもりになっていても、聴くたびに発見があるのが名曲」とあったが、今回聴いての発見は「西部劇を思わせるメロディー」が随所にあるということ。馬で軽快に早駆けしているようなリズムと雄大な曲調は、まさに新世界・アメリカを縦横無尽に開拓していった人々の前に広がっていた景色を思わせる。

素晴らしかったのは第2楽章。しんと静まった大ホールに響く「家路」のメロディー。オーボエの上品綾香が見事に演奏し終わった時、隣で聴き入っていた神農広樹のうれしそうな顔ときたら! 演奏後にスダーンが上品をたたえた時も、横でこれ以上はない破顔一笑で一番大きな拍手を送っていた。その様子は見ているこちらが思わず微笑んでしまうほど。幸せな気分にさせてくれた。

「Meet-HPAC~リサイタルホールから~」vol.4 で佐渡芸術監督が「木管楽器の中心的存在のオーボエの2人の音色感が抜群にそろっている。これはオーケストラにとって、とても大切なこと。もともとの相性もあるが、互いの努力で近づけている」と話していたことを思い出す。

互いの音をよく聴き、その音に自らの音を乗せていくこと。オーケストラのそれぞれの楽器が、何度も顔を出す循環主題を順に奏でてく時、自らが引き継ぐメロディーを奏でている奏者にアイコンタクトを取っている様子も舞台に近い席だとよくわかる。音楽は時間とともに消えていく芸術だけれど、その日、確かにその曲を聴いた記憶は長く心に刻まれる。その幸せな記憶は、時がたっても決して色あせることなく、人生を豊かにしてくれるから、私は劇場に足を運んでいるのだと思った。

 

コントラバスの黒木のほかのゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの横山敏朗(NHK交響楽団第2ヴァイオリン フォアシュピーラー)、PACのOGでもあるヴィオラの石橋直子(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)、同じくPACのOBでチェロの西谷牧人(元東京交響楽団首席)、バスーンの中野陽一朗(京都市交響楽団首席)、トランペットの西馬健史(京都市交響楽団奏者)。スペシャル・プレイヤーはPACのミュージック・アドバイザーも務める水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)。PACのOB・OGはヴァイオリン6人、ヴィオラは石橋のほかに2人が参加した。(大田季子)

 




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