至高の名画が集結。凄すぎる充実度
大阪市立美術館で「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」開催中

「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」が、2022年1月16日(日)まで大阪市立美術館で開催され、連日、多くの人が至高の名画を鑑賞しに足を運んでいる。

 

世界最大級の私立美術館は市民の誇り

メトロポリタン美術館はアメリカ・ニューヨーク市のマンハッタンに位置する世界最大級の美術館。1870年に創立されて以来、先史時代から現代まで5000年以上に及ぶ考古遺物・美術品150万点あまりを所蔵している。1864年の設立構想が持ち上がった時点では建物も1点の絵画さえも所有していなかった。そこから関係者の志と努力、基金やコレクターからの寄贈によって収蔵品の数が徐々に増えた。国や州ではなく、名もない人たちが支え、今も運営されている私立の美術館は、つい数年前まで入館料は「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」(あなたが望む額を支払えばいい)」と入館者が自分で決めていたほどだ。それ故に、ニューヨーカーの美術館への思いは、ひとしおなのだ。※画像写真の無断転載を禁じます

メトロポリタン美術館正面入口
© Floto+Warner for The Metropolitan Museum of Art

1936年5月に開館した大阪市立美術館。
2015年に登録有形文化財(建造物)に登録された

 

今回の展覧会の特徴を数字で表すとこのようになる。
5→1
大阪市立美術館の篠雅廣館長が「10年、いや20年に1度できるかどうかというほどの展覧会。通常の展覧会ならポスターになるような日本初の絵画が多く来日しました」と語る本展はメトロポリタン美術館からのオファーが始まり。あのTHE MET(メトロポリタン美術館の通称)から「こういう時だからこそ国際的連携を」と連絡が来た時、篠さんや美術館のスタッフは、にわかには信じられなかったそうだ。内容を確認して即決。コロナ禍で最小限の作業で進め、今までなら5年かかっていたところ1年で実施までこぎつけた。コロナ禍が従来の常識を覆したという点でも注目すべき展覧会なのだ。

46/65
17部門のうちヨーロッパ絵画部門のギャラリー改修工事に合わせて実現し、同部門の約2500点から作品が選ばれた。15世紀初頭の初期ルネッサンスから19世紀のポスト印象派の時代に活躍したラファエロ、エル・グレコ、レンブラント、カラヴァッジョ、フェルメール、ルノワール、ゴッホら日本でもよく知られている画家たちだ。その作品65点のうち46点は日本初公開。改修中だからこそ可能になった奇跡ともいうべきラインアップだ。このほかにも篠館長が「僕はこれが一番好きですね」というレンブラントの『フローラ』などの名画が集う。

 

<日本初公開作>

カラヴァッジョ(本名 ミケランジェロ・メリージ)《音楽家たち》1597年 油彩/カンヴァス 92.1 x 118.4 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1952 / 52.81

イタリアのバロック期を代表する画家・カラヴァッジョは窃盗、殺人と逃亡・投獄という波乱万丈の人生を送り、38歳の時、熱病でこの世を去った。決して多くは無い作品の鬼気迫るようなパワーは、その激情型の性格から生まれたものだろう。劇的な構図、強い陰影が特徴的で、彼の作風を真似る「カラヴァッジェスキ」族まで現れた。『音楽家たち』は26歳の時にデル・モンテ館で描かれた。光と闇の中から湧き出た、むせるほどの官能の中に、代表作『果物籠を持つ少年』、『病めるバッカス』と同じように、自画像と思われる人物を登場させている(右から2人目)。

この作品を日本で見ることができるとは。しかも、こんなに近距離で
※主催者の許可を得て撮影

ヨハネス・フェルメール 《信仰の寓意》 1670-72年頃 油彩/カンヴァス 114.3 x 88.9 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931/ 32.100.18

 

1632年にオランダ・デルフトで生まれたヨハネス・フェルメールは誰に師事したか、作品の制作年など不明な点が多く謎多き画家とされている。現存する作品は35点(確認された作品の数)。そのうち5点を同美術館が所蔵している。オランダ市民の日常を描いた小作品が主だが、本作品は晩年に描かれた異例の寓話画(抽象的なことがらを具体化する表現技法で描かれた絵画)。『絵画芸術』とともに、フェルメールが描いた2点の寓意画のうちの一つ。描かれた女性は「信仰」の擬人像で、女性の片足が地球儀の上にあるのは、カトリック教会が世界を支配していることを表現している。サイズも約114×89㎝とフェルメールにしては大ぶり。世俗的、こじつけ、写実的に不自然、写実性に欠ける、といった批判もあり、評価が分かれた。擁護派が写実性を正当化したガラス球と地球儀に注目。

「フェルメールの他の作品とは、少し違いますね」と説明する篠館長(左)。
各絵画に合わせて作られた重厚で美しい額にも魅せられる
※主催者の許可を得て撮影

このモネの『睡蓮』も日本初公開
※主催者の許可を得て撮影

 

3/18
本展覧会は全3章で西洋絵画の歴史をたどれる構成となっている。第3章「革命と人々のための芸術」には絵画に数々の革新をもたらした19世紀の画家の作品18点が並ぶ。セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホのポスト印象派巨匠の3作品が同じ空間に展示されるのは、篠館長によれば、本場のメトロポリタン美術館でもあまり無いことだそうだ。形態の単純化や鮮烈な色彩表現といった20世紀初頭の前衛芸術の先触れとなる要素を感じることができる。

オーギュスト・ルノワール 《ヒナギクを持つ少女》 1889年 油彩、カンヴァス 65.1 x 54 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Mr. and Mrs. Henry Ittleson Jr. Purchase Fund, 1959/ 59.21

肖像画をはじめとする人物画で名声を確立したルノワール。20歳でパリのアトリエに入り、モネらと出会って印象派に参加した。この作品やバーンズ・コレクション所蔵の『浴女たち』やオランジュリー美術館所蔵の『横たわる裸婦』など、晩年まで一貫して追求した若くふくよかな女性を描いた。「裸婦ならばその胸や腰を愛撫したくなるような絵が好き」と公言していたルノワール。線描を使わずに豊麗な色の濃淡で柔らかく描かれた少女からは匂い立つような色香さえ感じる。

ポール・セザンヌ 《リンゴと洋ナシのある静物》 1891-92年頃 油彩/カンヴァス 44.8 × 58.7 cm ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Bequest of Stephen C. Clark, 1960 / 61.101.3

セザンヌは何十年も静物画を追求し続け、主題を皿やカップと共にリンゴ、洋ナシ、レモン、オレンジなどの果物に定めた。果物はプロヴァンスの名産で、じっくりとアングルを研究するのに最適だった。傾いた机や皿、歪んだ壁、不自然だけれど存在感がある果物には不思議と安定感がある。あまりに革新的であったゆえに当時の大衆からは受け入れられなかったが、死後にキュビスムをはじめとする20世紀初頭の前衛芸術に多大な影響を及ぼした。
(文/澤 有紗)

 

※「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」
2022年1月16日(日)まで大阪市立美術館(大阪市天王寺区茶臼山町1-82)で開催。
2022年2月9日から5月30日まで東京の国立新美術館で開催。
休館日=月曜日(1月10日開館)・年末年始(12月30日~1月3日)
開館時間=9時30分~17時(入館は16時30分まで)
観覧料(税込)=一般2,100円、高大生1,500円 ※日時指定予約制

特設サイト
https://met.exhn.jp

大阪市立美術館公式サイト
https://www.osaka-art-museum.jp/

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