公開中の「北白川派」初の時代劇「CHAIN /チェイン」に込めた思いとは?~福岡芳穂監督に聞く

これから見る人へのアドバイスを聞くと福岡監督は「歴史の好きな人には、割と忠実に描いているのでそれを見る楽しみも。歴史をあまり知らない人には、現代劇を見るつもりで、その場その場の人物の感情を追いかけてもらえれば」

京都芸術大学発「北白川派」※で初めての時代劇「CHAIN /チェイン」が、12月10日からテアトル梅田と京都シネマで公開されている。(12月31日(金)からはシネ・リーブル神戸でも公開)。新撰組終焉の象徴的な事件といわれる「油小路ノ変」を軸に、幕末の京都を舞台にした青春群像を虚実織り交ぜて描いた作品だ。

※京都芸術大学が、映画学科(映画製作コース・俳優コース)が持つ機能を駆使しながら、プロと学生が協働して1年で1本の映画をつくって劇場公開を目指すプロジェクト。「CHAIN /チェイン」はその第8弾

関西公開前の12月6日にリモート取材に応じた福岡芳穂監督は「着物を着たこともない若い学生たちが、脚本・演出・演技から撮影場所となるお寺の交渉まで、実に粘り強く頑張りました。時代劇が次代に伝わるプロセスとなれたかもしれない」と話した。

 

2018年初夏、ともに同大学で教える椎井友紀子プロデューサーと福岡芳穂監督が企画立ち上げで顔を合わせた時、椎井プロデューサーの第一声は「今まで北白川派で時代劇をやってこなかったのはおかしい!」だったそうだ。

本作が初主演の上川周作。「彼は、岸部一徳さんが出演された北白川派の私の前作『正しく生きる』で群像劇の主役グループの一人をやってもらった俳優です。その時は大学生だったけれど、非常に繊細な心情を表現してくれていた。卒業後の活躍もいろいろ見ていたので、元会津藩士で用心棒の山川桜七郎のような屈折し、非常に内省的なこの役は一番に彼にやってほしいと思いました」と福岡監督

「京都には撮影所もあるのだから、時代劇をぜひやりましょうと椎井さんは言い、面白いなと思いました。東映京都撮影所には時代劇に関する知見や技術が蓄積され、人材も豊富です。けれど、だんだんそれが失われていきつつあるのではないか。そこに学生を出合わせて少しでも身につけることができれば、非常に大きな財産になる。自分たちの大学がある京都という場所で積み重ねられて来た時間を、自分たち自身で掘り起こすことも大切だと思いました」と福岡監督は振り返る。

問題は、時代劇にはお金がかかること。資金が潤沢ではない北白川派で「本当にできるのか」という不安を払拭したのも椎井プロデューサーだった。

「映画製作会社の代表を20年間務め、プロデューサーとして多数の作品を世に出してこられた経験の中から撮影所にお話しいただいて、東映京都撮影所の全面的な協力をいただけました。ああ、これで何とかいけるかなと思いました」

撮影所のスタッフが時間をかけて大学に通い、着物を着て歩いたこともない学生たちに様々なことを教えていった。「着物の着方から所作、侍が刀をそこに差しているのはどういう意味なのか。一からいろいろなことを教えてくださいました。それで時代劇が遠い時代の他人事(ひとごと)ではなくなって、学生たちの体に少しずつ落とし込まれていくような経緯もあったので、非常に貴重な時間だったと思います」

本作の伊東甲子太郎役を最後に俳優引退を表明した高岡蒼佑の存在感

高岡蒼佑は新撰組を抜けて御陵衛士の盟主となり、油小路ノ変で新撰組に殺された伊東甲子太郎を演じた

18年秋から「キャラクターがストーリーを作る」という方法論に基づき、学生と一緒に脚本の港岳彦さんが半年がかりで上げてきた第1稿は「新撰組暗殺秘録 七条油小路ノ変」だった。最終稿まではさらに1年を要した。「最初は油小路ノ変をめぐる3、4日の話でした。いろんな人の思いが詰め込まれて広がっていく。それを大事にしつつ最終何稿までいったかはカウントが難しい。途中で僕が書いて却下されたものもあるし、人物設定が大幅に変わったところもあります」と福岡監督。

撮影はコロナが問題になり始めた2020年2月後半から3月の初めの2週間。「プロの俳優さんたちがスタッフや共演陣が学生であることで嫌がったりしないかと思いましたが、皆さん『ぜひやらせてほしい』と。若い人たちに何かを伝えられたら嬉しいし、逆に自分も何かをもらうことで今後の俳優生活に刺激をもらえるはずだとおっしゃっていただき、現場でも準備段階でも非常に真摯に付き合っていただいた。なので、伊東甲子太郎役の高岡蒼佑さんが、この作品を最後に俳優引退を表明されたことは非常に残念です」

 

撮影中の福岡監督。数多くの時代劇で活躍し「5万回斬られた男」と呼ばれた俳優・福本清三さんは2021年1月に亡くなり、最後の出演作となった

劇中の殺陣シーンをどのように撮るか。撮影所の殺陣師たちとずっと考えたという。

「所謂きれいな殺陣、例えばつば競り合いしながら人物同士が見栄を切るようなことは一切やめて、本当に殺し合うとどうなるか。殺し合うこと自体を我々がどれだけ想像できるかという、本当にちょっと間違えば一気にどちらかがやられてしまうような。スピーディーでやや荒っぽい殺陣にしてもらいました」。セリフの少ないそのシーンの緊張感を、強いリズムとパッションを放つフラメンコギターが引っ張っていく。

時代劇を他人事でなく自分事にするための仕掛け

多くの人がその地で生きて、死んでいった1200年の都・京都。冒頭近く、油小路ノ変で斬り殺された武士の骸が、現代の街角に転がっているシーンが印象的だ。このような実験的な映像が生まれるのも北白川派ならではだろう。福岡監督は言う。

「時折ふっと『かつてここにも人が生きていた』という思いにとらわれることがあります。そういうものを映画で、実際に目で見、耳で聞くとどうなるんだろうと考えて作ったシーンです。現代の人たちはすべて学生も含めてエキストラで、状況を説明して『あなただったらどうしますか?』と考えて演じてもらいました。そのまま通り過ぎる、スマホで写真を撮って発信する、すべて自分事として反応してもらいました」。そこにも時代劇を、自分から遠い他人事にはしたくないという福岡監督の強い思いが反映されている。

実際にそのシーンの後、事件当時のシーンに戻った時、遠巻きに恐る恐る見ている荷車引きや店先で人が死んで「たまったものじゃない」と思っているだろう人たちの思いに心を寄せる自分がいた気がした。

それを伝えると監督は「そんなふうに感じてもらえたら、死んでしまった人達も、もう一回生きてくることができるのかなと。それが今、100年後、今から100年後みたいなことにつながっていくのかな、想像することでつながっていくのかな、と思うんです」――そうか、それでこの映画の題名が「CHAIN」なのか。福岡監督がタイトルに込めた願いが、腑に落ちた。

©北白川派




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