柏木哲夫さん47冊目の著書「老いを育む」出版~鎌田實さん、釈徹宗さんとの対談も収録

出版社で働く友人によると「最近よく売れる本は自己啓発本」だそうだ。先行き不透明な世の中を、自分に何かを蓄えることで乗り切っていきたいという気持ちの表れだろうか。

高齢社会・日本の実情を映すかのように、書店には「老い」に関する本がたくさん並んでいる。人は生まれた瞬間から死ぬべき定めを負った存在で、不可逆の時を生きている。誰にとっても自分自身の「老い」は初めての経験だ。何かのきっかけで「ああ、年を取ったなあ」と感じた時に、誰かの助言や指南書のようなものを欲するのも自然なことなのかもしれない。

そんな中、1975年36歳で初の著書を出版した時の喜びが忘れられず、「年に1冊本を出版する」ことを自分との約束事にした82歳の柏木哲夫さん(ホスピス財団理事長、大阪大学名誉教授、淀川キリスト教病院名誉ホスピス長)が、最新刊にして47冊目の著書となる「老いを育む」(四六判196ページ/三輪書店/定価1,760円)を昨年末に出版した。

 

精神科医、内科医、ホスピス医として長年、臨床・研究・教育に携わってきた柏木さんが「身体」「こころ」「社会」「魂」の4つの側面から「老い」を見つめた本書は、専門的な話も平易な語り口で読みやすい。

医学的な知識に裏打ちされた「老いを育む」ための自らの実践や、約2500人の患者を看取った経験に基づく深い人間洞察から出た大切な言葉が随所にちりばめられている。

 

柏木哲夫さん

収録されている2つの対談も興味深い。

諏訪中央病院名誉院長、地域包括ケア研究所所長の鎌田實さんとの対談「『老い』をいかに受容するか」は、地域医療とホスピス専門病棟、異なる立場で緩和ケアに取り組んできた2人のビッグ対談だ。「最期まで元気でヒラリとあの世に旅立つ」ことを示す鎌田さんの造語「PPH(ピンピンヒラリ)」の極意を語り合う。

浄土真宗本願寺派如来寺住職で相愛大学副学長・人文学部教授でもある釈徹宗さんとの対談「豊かな老いを生きる―ユーモアと宗教の視点で」では、笑いが生きる力に直結することを確認できる。

また、池田市で認知症グループホーム「むつみ庵」を運営するNPO法人の代表も務める釈さんは「お世話され上手な人が一人いると、共同生活がうまく回る」エピソードを紹介している。

 

本書を読みながら私は、昔誰かに聞いた言葉を思い出した。それは「今日という日は私のこれからの人生にとって一番若い日」という言葉だ。82歳の柏木さんの日々のチャレンジに負けないよう、63歳の私も何かを始めてみよう。本書は折に触れて読み返すことで、「老い」の日常を支えてくれる指針になってくれるに違いない。(大田季子)




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