劇団四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」京都劇場で公演中  ロボットと、心温まる「人生再起動」の旅へ――。

2月23日、劇団四季ミュージカル「ロボット・イン・ザ・ガーデン」が、京都劇場(JR京都駅ビル内)で開幕した。劇団四季のオリジナル一般ミュージカルとしては16年ぶりの作品で、今回の京都公演が関西初上演。心に傷を抱えた主人公・ベンと壊れかけのロボット・タングの絆と成長の物語に、客席からは惜しみない拍手が送られた。

 

主人公のベン(左)とロボットのタング 撮影:野田正明

原作は、イギリスの作家デボラ・インストールによる同名の小説。壊れかけたロボットとの出会いが、止まっていた男の人生を再び動かし始める優しさいっぱいの物語を、劇団四季がオリジナルミュージカルとして舞台化。2020年10月に東京で初上演され、ミュージカル出版社発行の雑誌「ミュージカル」による「2020年ミュージカル・ベストテン」では、作品部門の第1位に選ばれるなど高い評価を得ている。

 

舞台は、人工知能の開発が進み、アンドロイドが人間に替わって家事や仕事など様々な作業を行う近未来。イギリスの片田舎に住むベンは、両親を不慮の事故で失って以来、獣医になる夢もあきらめ無気力な日々を過ごしている。弁護士として活躍する妻のエイミーは、そんな夫に対していら立ちを募らせ、すれ違いが続いている。

ある日、ベンの家の裏庭にボロボロで壊れかけのロボットが現れてから、物語は動き出す。「タング」と名乗るそのロボットに、ベンは他のアンドロイドにはない不思議な魅力を感じてあれこれ世話を焼くように。「あの粗大ごみを追い出して!」と不満が限界に達したエイミーはとうとう愛想を尽かして家を出ていき、一方のベンもタングを修理するための旅に出ることを決意するが……。

 

世界中を訪れて絆を深めるベンとタング 撮影:野田正明

2月23日初日は、ベンに山下啓太、エイミーに岡村美南のキャスティング。揺れ動く夫婦の繊細な心を巧みに演じ、歌いあげる。とりわけ、出会ったころの2人の高揚感を伸びやかに幸福感たっぷりに表現する第2幕の「Gift」は聴きごたえたっぷりだ。タングの操作は俳優が二人一組で行い、主なせりふを担当する生形理菜が頭と右手を、もう一人の渡邊寛中が胴体と左手を動かす。息の合ったコンビネーションで、あり合わせの材料で作られた設定の「懐古主義的」なロボットに、あざやかに命を吹き込んでいる。

修理のカギを握る人物を次々に訪ね歩き、カリフォルニア、ヒューストン、東京、パラオと、トラブルだらけの旅を共に続けていくうちに、お互いの心を通わせていくベンとタング。人間とロボットが手をつないで歩く姿は、時に気心知れたバディのようで、時に強い絆で結ばれた父子のようにも映る。タイトルナンバー「ロボット・イン・ザ・ガーデン」でベンがタングに向けて歌う「負け犬とロボットで 旅しよう 笑いながら」の一節の響きは、その色彩をよりあざやかにする。上質なロードムービーの要素も含んだミュージカルだ。

ベンがそうであったように、幕が進むにつれ、タングに対する愛着が深く濃く増していくのは、観客も同じなのではないか。ベンチにちょこんと腰掛けたり、愛おしそうにベンを見上げたり、その仕草すべてがチャーミングで、無機質な表情も時に笑顔に、時に泣き顔に見えてくるから不思議だ。愛らしい生形の声もタングの魅力を増幅させ、時おり発するタングのせりふ一つひとつが、あたたかく心にしみわたっていく。事実、カーテンコールでひときわ大きな拍手を集めていたのは、他でもないタングだった。

作品のキャッチコピーは「きみと、人生再起動」。舞台を通じて大切なものは何かを思い出させてくれる世界観に惹きこまれ、数ある四季作品の中でも「人生は素晴らしい、生きるに値する」という劇団四季が掲げる普遍的なテーマがとりわけ色濃く流れている作品だと感じた。(伊藤真弘)

 

【公演情報】『ロボット・イン・ザ・ガーデン』京都公演は、2022年4月16日(土)まで京都劇場(JR京都駅ビル内)で。料金はS席9,900円~12,100円、A席8,250円~9,350円、B席6,050円~7,150円、C席2,750円~3,850円(公演回によって変動あり、詳しくはHPで)。※公演当日3歳以上有料(ひざ上観劇不可)。2歳以下入場不可、有料託児サービスあり。

ネット予約 SHIKI ON-LINE TICKET  http://489444.com(24時間受け付け)

問い合わせはナビダイヤル 0570・008・110

京都劇場のロビーではミニチュアのタングが出迎えてくれた(撮影:伊藤真弘)



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カテゴリ: エンタメ