拠点を東京に移してからも関西びいきが止まらないライター・井上理津子さんが、朝日新聞大阪本社版夕刊で連載していた「味な人」をまとめた「ぶらり大阪味な店めぐり」が、産業編集センター「わたしの旅ブックス」シリーズで書籍化された。2013年の連載開始から16年春までの掲載分をまとめた「関西かくし味」(ミシマ社)に続く第2弾だ。
【井上理津子さんインタビュー】
――取材のきっかけは?
朝日新聞生活文化部から、「さすが関西!みたいな店と味と人を訪ね歩きませんか」とお声掛けいただき「よろこんで!」と始めました。ちょうど2010年に東京へ引っ越して、関西の魅力を再認識していたところでした。関西には「美味しい」「安い」「感じいい」の3拍子がそろった店が多いことも関西の魅力の一つだなあと思っていたのです。
――お店のチョイスは、どのように?
関西に行くたびに、かねてから気になっていた店を再訪したり、口の肥えた友人たちが推薦する店を訪ねたりして、吟味しました。後半は、自分の関心の移ろいから、自然食系が中心になってきたと思います。
――お店を取材してきての感想は?
本当に皆さん、まじめ。手抜きゼロ。より美味しくなるように、日々努力をしているお店と人ばかり。そこには生き方が反映されていると思います。
「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが、長時間労働が当たり前な飲食業の世界で、それをものともせず長年頑張っておられるのは、好きだからこそ!
――今回の本は、「大阪」と「大阪以外(京都・滋賀・奈良・兵庫)」に章立てが分かれていて、4本の書下ろしコラムが入っていますが、もし、違う軸でまとめるとしたら?
そうですね。まず「一流店と同じ手間をかける街場の店」かな?
中華ダイニング 茶々(大阪市東淀川区)、フランス料理では大西亭(大阪市福島区)、ブラン・ピエール(京都市中京区)、シェヴー(芦屋市)、イタリアンの5+[チンクエ・ビュー](箕面市)など、忘れられない味です。
「自然な生き方、自然な味」が心に残ったのは、ロゼブル(箕面市)、アナトリエ(吹田市)、オーガニック畑キッチン結(堺市)、ならやま薬膳(奈良市)、奥明日香ささら(明日香村)、げんき食堂(大阪市都島区)、はこべら(大阪市阿倍野区)など。お店の人の笑顔もステキでした。
「飽くなき味を探求するど根性」を感じたお店は、あした葉なかや(高槻市)、辻田(大阪市西区)、駱駝(京都市左京区)、お好み焼き ぼくのや(西宮市)、鮎味亭(京都市山科区)、芦屋らーめん庵(芦屋市)など。
ほかにも「継続は力、って本当だなあ」と感じさせてくれた殿田食堂(京都市南区)、和廣飯店(奈良市)、みどり食堂(明石市)、焼き肉のリッチ(尼崎市)、大西商店(神戸市東灘区)。
「若者が瞬発力でスタートして本物に」なった百足家(大阪市北区)、わら焼 宿酔(大阪市中央区)、おるそ(大阪市西淀川区)、シチニア食堂(宝塚市)や、「奥様芸が職人芸に」なった清左衛門(西宮市)、ランチ&アフタヌーン・ティー Hana(橿原市)、喜兵衛(近江八幡市)なども。
――すごいですね。それだけ味も人も印象的だったということですね。
はい、本に収録した66のお店は全部、本物の「味な店」でした!
夕刊コラムということで、文字数はわずか560字。サラリと読める中にお店の魅力をギュッと書いています。
――このコロナ禍で、飲食業界は大変だと聞きますが。
新聞に掲載した後に閉店していたのは、わずか4件でした。
4件ともいわゆる「コロナ閉店」ではなく、物件の定借切れや高級路線に変更などが理由でした。それ以外のお店は、休業要請、時短要請に粛々と従ってきて、ようやく通常営業を再開できたところだと聞いています。
コロナで外食をしなくなったという人もいるかもしれませんが、私は個人経営の飲食店が充実していることは、街の文化を測るバロメーターだと思っています。
美味しいものをお店で食べる。食べる前のわくわく感と食べ終わった後の満足感は人生の糧になります。お店を応援することは自分を応援することにもなると思います。
どのお店も感染予防を徹底して、お客さんを待っています。本を読んで、ぜひお店へ行ってほしいと思います。
――ありがとうございました。