怒涛の展開で随所に笑いが巻き起こる! リピーター続出のCutting Edge KYOGEN「真夏の狂言大作戦2022」全国7カ所で公演

【7/9兵庫県立芸術文化センター「Cutting Edge KYOGEN」観劇リポート】

パワフルな舞台を届ける「Cutting Edge KYOGEN」のメンバー。(前列左から)茂山逸平、宗彦、(後列左から)茂、千五郎、千之丞

7月9日、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールに詰めかけた満員の観客は開演前から期待にざわめいていた。この日は江戸時代初期から400年以上続く京都・茂山千五郎家の狂言師、茂山千五郎、宗彦(もとひこ)、茂、逸平、千之丞の 5 人からなる狂言ユニット「Cutting Edge KYOGEN(カッティング・エッジ・キョウゲン)」が1年ぶりに登場。狂言の新たな魅力を伝える「真夏の狂言大作戦2022」を繰り広げる日なのだ。

5人は、彼らの父親たちにあたる千作、七五三、あきらが1976 年に結成した「花形狂言会」を受け継ぎ、2019 年まで「HANAGATA」として活動。兵庫芸文には12 年の初登場以来、毎回完売続きの人気公演を行ってきた。千五郎襲名(16 年)、千之丞襲名(18 年)など、メンバーが千五郎家の中核を担う狂言師として充実期を迎える中で、“若手”を表す「HANAGATA」を卒業。20 年夏の公演からユニット名を最先端という意味を冠した「Cutting Edge KYOGEN」に改めて、さらなる笑いを追求している。

開演前からすでに笑いが……

観客を楽しませる趣向は開演前のアナウンスから始まっていた。

「Cutting Edge KYOGEN」の運営を一手に担う逸平が「本日は兵庫県立芸術文化センター佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ『ラ・ボエーム』にお越しくださいまして……、あ、間違えました」と会場を笑わせ、大半がリピーターの観客たちの「今日は一体どんなものを見せてくれるのだろう」という気持ちに火をつける。

客席が暗くなり白足袋に紋付袴姿で三々五々登場した5人。なのに開演前から低く続いていたアップテンポの音楽は止まるどころか、ボリュームアップ。5人が一斉にキレッキレのダンスを披露し始めた。

このいでたちでKYOGENポラリーダンスを披露した(左から)茂山逸平、千之丞、千五郎、茂、宗彦。ダンスの時の背景は松羽目でなくモダンな黒

まさかの展開に、あ然とする客席。狂言師の身体能力の高さは知っていたけれど、アラフォー以上のおじさんたち(失礼! でも千五郎さんは先日50歳の誕生日を迎えたばかり!)が、こんなダンスを踊るとは⁉ ためらいがちに始まった手拍子が大きな拍手に変わった後で、逸平がマイクを手にした。

「KYOGENポラリーダンス、いかがでしたか? 昔からの狂言は小道具もあまり使わず、たとえ女の人の役でも、おじさんがそのままの顔で演じます。今年の公演はこのホールだけでなく、全国ツアーすることになりました。ということは、僕たちの公演で初めて狂言を見る人たちがいるということになりますが、皆さん、僕たちのいつもの公演は『狂言』と言っていいでしょうか?」

リピーターで埋め尽くされた会場からは大きく「NO!」の意思表示。

「そうですよね。僕たちがいつもやっている舞台は、狂言師として日々鍛錬している伝統的な技を駆使した舞台ではあるのですが、それが本来の狂言だと思われちゃうとまずいですよね。それで今回は古典の作品も盛り込んだ構成にしました。これから2時間、思い切り笑って楽しんでください」

まずは古典の名作「棒縛」

「棒縛」(左から)茂山茂、千之丞

その口上でスタートしたのが古典の名作「棒縛(ぼうしばり)」。主の留守中に盗み酒をする太郎冠者(千之丞)と次郎冠者(茂)を警戒し、彼らの両手が使えないように縄で縛って出かけた主人(千五郎)だったが……。

色鮮やかな衣装、腹の底から出す声のつや、滑稽なしぐさ、そして何より演者の表情の豊かさ(笑顔がステキ!)。セリフ回しは時代がかっているが、わかりやすい展開で、初心者にも十分伝わる作品だ。約30分間、絶え間ない笑いが客席から起こり続けた。

 

「Cutting Edge KYOGEN」の真骨頂3演目

15分の休憩を挟んだ後は、軽快なテンポ、現代的な話し言葉に加えて時代を反映した笑いのセンスと古典的手法を巧みにミックスした「Cutting Edge KYOGEN」の3演目が怒涛のごとく続いた。

「全力で小舞を作ってみた~カルチャーセンター編パート2~」(左から)茂山宗彦、逸平

最初は逸平と兄の宗彦の共演で「全力で小舞を作ってみた~カルチャーセンター編パート2~」。コロナ禍でカルチャーセンターの小舞「ミョウゲン」の講座がリモートになった宗家(宗彦)が、久しぶりにリアルの講座にやってきたところ……。家元(逸平)の巧みな進行で、時にブラックユーモアも混じりながら、兄弟の息の合ったやり取りが楽しい。

 

「IB争い」茂山千五郎

続いては新作「IB争い」。自撮り棒を手に現れたのはインバウンドの観光客を呼び戻そうとする観光地の精(千五郎)。一働きしたところに包丁を手にした和食の精(茂)がやってきて、小競り合いを始める。そこへ打掛で頭を隠したアニメの精(山下守之)が現れて三つ巴の戦いになったところへ舞台後方から神々しく現れたのは、千之丞が演じる意外なものの精だった……。

 

「呼声・改」(左から)鈴木実、茂山宗彦、茂、逸平

最後は再び宗彦と逸平のやり取りから始まる「呼声・改」。明日、早朝から仕事に出なければならない男(宗彦)のもとへ「今から一緒に遊ぼう」と男(逸平)が誘いにくる。「明日、早いからあかん!」と断るが、何度も何度もやってくる。その登場と退場の仕方がクスクスと笑いを誘う。そのうち、2階にあるはずの男の部屋の窓から別の男(鈴木実)が現れて……。

売り言葉に買い言葉の不条理劇の果ては、全員総出で舞台上を駆け回るカタストロフィー的な場面に。先の読めないスピーディーな展開に目が釘付けになり、笑い転げた。

【写真提供=兵庫県立芸術文化センター、撮影=飯島隆】(大田季子)

彼ら5人の全国ツアーは「HANAGATA」時代の2017 年に全国 11 カ所、18 年に7 カ所で行い、大きな反響を呼んだ。今年は4年ぶり、「Cutting Edge KYOGEN」としては初めての全国ツアーとなる。

【ツアースケジュール】

7 月 24 日(日)14:00 小野市うるおい交流館エクラホール TEL:0794・62・5080(9:00~20:00)

8 月 6 日(土)14:00 高知県立県民文化ホール グリーンホール TEL:088・824・5321(9:00~17:00)

8 月 7 日(日)14:30 倉敷市芸文館 ホール TEL:086・434・0010(9:00~17:00、水曜休み)アルスくらしきチケットセンター

8 月 20 日(土)14:00 岸和田市立浪切ホール(南海浪切ホール)大ホール TEL:072・439・4915(10:00~20:00)

8 月 27 日(土)14:00 春日井市東部市民センター TEL:0568・85・6868(9:00~21:30)(公財)かすがい市民文化財団

8 月 28 日(日)14:00 まつもと市民芸術館 小ホール TEL:0263・33・2200(10:00~18:00)

 




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