2016年に公開したドキュメンタリー映画「さとにきたらええやん」(平成28年度文化庁映画賞・文化記録映画部門 優秀賞、第90回キネマ旬報ベストテン文化映画第7位)が話題を呼んだ大阪府出身の重江良樹監督の最新作「ゆめパのじかん」が、7月23日(金)から関西で公開される。
ゆめパとは「川崎市子ども夢パーク」(神奈川県川崎市高津区)のこと。1994年の国連「子どもの権利条約」の日本批准を機に、2000年に川崎市が制定した「子どもの権利に関する条例」に基づき、2003年に公設民営で設置された「家庭でも、学校でもない、第3の子どもの居場所」だ。
入口付近に条例の趣旨を掲げたステキな展示がある。
「ありのままの自分でいる場所」
「休息して自分を取り戻す場所」
「自由に遊び活動する場所」
「安心して人間関係をつくりあうことができる場所」
工場跡地を利用した約1万平方㍍の広大な敷地に、「けがと弁当は自分持ち」(西野博之所長=当時)のプレーパークエリア、音楽スタジオ、創作スペース、ゴロゴロしていい部屋や乳幼児親子の部屋、学校に行っていない子のための「フリースペースえん」、全天候型スポーツ広場などがあり、スタッフが見守る中で、乳幼児から高校生まで幅広い年齢の子どもたちが利用。多世代が集う場所で、異年齢の子どもたちの交流が生まれている。
映画に登場する子どもや大人の表情が明るく輝いているのが印象的だ。
【重江良樹監督インタビュー】
重江監督は2019年5月から週2回、大阪から夜行バスで「ゆめパ」に通い始めた。
「川崎の山のほうに古いアパートを借りて、カメラ機材を持って猛烈なラッシュの電車に乗って通いました。最初の3カ月は、ゆめパに来る子どもと一緒に遊んだりして自分を知ってもらうことに専念し約3年間、21年の春まで撮影しました」
毎年文化の日に、2人以上のグループで参加する子どもだけの模擬店「こども夢横丁」の取り組みも映画の大きな柱になっている。
本作の制作の動機は「前作を見た人から託された宿題への自分なりの答え」だという。
「さとにきたらええやん」は大阪市西成区にある児童館「こどもの里」に密着したドキュメンタリー映画だった。そこに集まる子どもや大人たちが助け合い、成長する姿を活写した作品で、全国で約7万人が見た中で「私が子どもの時は、こんな場所はなかった」「私の子にもこんな場所があれば」との声が寄せられたという。
重江監督は「居場所や信頼できる大人の存在があるラッキーな子と、それがなくて苦しむ子がいる。その不平等がずっと心に引っかかっていた。日々のニュースを見ていても、虐待やいじめ、自死など子どもに関する悲しいニュースは減らない。そんな中で僕にできることは、子どもの居場所のことを伝えることだと思ったのです。
子どもの居場所を作る人たちは、子どもを一人の人間として対等に、同じ目の高さで見ています。『子どもは半人前の存在だから導かなければならない』という古い子ども観を捨てて、子ども自身が持っている、自分を育てていく力を信じる。言葉で言うと簡単ですが、難しいことです。
けれども映画を見た人たちが、そんなエッセンスをそれぞれの地域や家庭に持ち帰って、できる範囲で何かを実践していけば、潜在的なしんどさを持っている子どもたちが、ほんの少しでも気楽に、息のしやすい世の中になるんじゃないかと思います。一人でも多くの子どもたちに『生まれてきてよかった』『生きていてよかった』と思ってほしい」と話す。
「子どもをめぐる現状で、何が一番問題だと思いますか?」と尋ねると「人の育ちは数値では測れないものです。そこに経済的な指標である費用対効果の概念を持ち出して大人たちが議論していることはよくないことだと思います」との答え。筆者が「コスパ(費用対効果)の呪いを解くのは『ゆめパのじかん』ですね!」と返して、大爆笑のインタビューとなった。(大田季子)
【関西での公開日程】7月23日(土)から第七藝術劇場、29日(金)から京都シネマ、8月6日(土)から元町映画館 で公開。「ゆめパのじかん」公式サイトはコチラ http://yumepa-no-jikan.com/
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