日本にある様々なムラ社会のおかしさを浮き彫りにする最新作「裸のムラ」公開中~五百旗頭幸男監督インタビュー

まじめな表情で写真に写っていることが多い五百旗頭幸男監督に「笑ってください」と注文。「〇〇〇がある時!」の破顔一笑。鋭い眼差しで「社会の矛盾を伝えたい」という五百旗頭監督だが、実は映画に出てくるムラの住人たちそれぞれを“愛すべき存在”として見ている優しさも感じた=10月3日、大阪市内で

大きな注目を浴びたドキュメンタリー映画「はりぼて」(2020年/チューリップテレビ/砂沢智史との共同監督)の五百旗頭幸男監督の最新ドキュメンタリー映画「裸のムラ」が先週末から京都シネマと大阪・第七藝術劇場で公開中だ。20年春に元のテレビ局を退職した五百旗頭監督は、石川テレビ放送に再就職。ドキュメンタリー制作を本格的に手掛けようとした矢先にやってきたのが新型コロナウイルスだった。

 

【五百旗頭幸男監督インタビュー】

――タイトルから「裸のサル=人間」を思い出しました。様々な人たちが登場しますね。

「裸のムラ」は日本のムラ社会を描いた作品です。コロナの第一波がやってきた時、未知のウイルスがやってきたことによって、人間や社会の本質がむき出しになっている、裸になっているなとまず感じました。それが出発点で、男性中心のムラ社会の本質が見えてきた。

タイトルの「裸」という言葉はいろんな部分をカバーしています。県政だけではなく、ムラ社会の最小単位は家族だと思うので、市井の人にもカメラを向けました。強いて言うなら、僕たち取材する側も裸になっています。

7期28年の任期を終え石川県庁を去る谷本正憲知事は集まった人々に手を振ってあいさつした

意識したのは対比です。長期県政はわかりやすいムラ社会の一つで、男性中心の忖度(そんたく)や同調圧力がはびこっている。そういうムラ社会からはじき出されたのがムスリムで、まずそこに軸となる対比があります。

でもそれだけではムラ社会の空気感は描けないなと思って、同調圧力の強いムラ社会にあって、そういう圧力を全く気にせずに自由な生き方をしている人を探してたどり着いたのが、バンライファーの中川生馬さんでした。

その3つの題材がそろった時に、これで何か描けるだろうと動き出しました。

軸となる対比だけでなく、いろんな対比を生かしながら矛盾を浮き立たせたかった。対比はバンライファーの中でもある。自由に生きているように見える中川さんもいれば、自由になりたかったけれどムラの目から逃れられずに不自由な秋葉さんたちもいる。ムスリムの家族も、ヒクマさんが何でも言いたいことを言うので、それに対して旦那さんが忖度したりして女ムラにも見えなくもない。子どもたちも宗教に関しては生まれながらにムスリムだから、そこは言いたくても言えない感じがあり、そこにも矛盾がある。

そういういろんな対比で矛盾を際立たせて、あとはそれぞれ3つの題材の中の共通点を感じとってもらって、最終的には2つのフヘン性、変わらない不変と、いろんなものに当てはまる普遍を感じてもらえるように、意図的に構成しました。

インドネシアで出会ったヒクマさんと結婚するためにムスリムに改宗した松井さんは3人の子どもたちと金沢で暮らしている

――プレスシートに監督が書いていたエピソード。お連れ合いの言葉にクスッと笑いました。

映画完成後に妻と同席した食事会で僕が「嫁」という言葉を口にした話ですね。初対面の女性に「日本国男ムラ」の制作者が「嫁」と発言したことに強い違和感を覚えると言われ、妻が「この人こそ、男ムラの住人ですよ」と応じたという……。

――「男ってヤツはそうなんだよね」と共感しました。男の人は男の人で「女ってヤツは……」と思っているかもしれないけれど。

だから無自覚なんですよ。言われないと気づかない。僕も男ムラにどっぷりつかってきた人間であるということは認めざるを得ません。

その時に、いろんな指摘をされて、自分は変わろうとするんだけれど、なかなか変われない。それをこの作品の中でも描いています。見ている人に感じてもらいたいのは、何度も同じことを繰り返してきたのが人間だし、なかなか変われないのが人間だけど、それを意識し続けて変わろうとしないと変われない。そういうところにもフヘン性があるのではないかなと思います。

――秋葉さんのバンの中に、まるで司令官のように妻の洋子さんがいました。

夫が運転して、妻がナビをしている。あるあるだと思います。車で移動して生活するのは、どこに車を停められるか、風呂や食事はどこでできるかなど、リサーチが結構忙しい。ソーラーパネルを車に積んでネット環境を守ることは彼らにとっては生命線。自由に見えて、結構不自由なんです。

――夫の博之さんが監督に「ドキュメンタリーだけど、演出は入るんですね」というシーンがありましたね。

これまで自分をよく見せようとしてきた秋葉さんが、僕に切り込んできました。ドキュメンタリーの本質に通じる言葉でした。あのシーンの後はきれいな浜辺のシーンですから、あのやり取りがなくて浜辺のシーンだけだと「きれいな場所で、いいなあ」で終わってしまう。見ている人を揺さぶりたいと思って意図的に入れました。

見る人は「ドキュメンタリーはありのままを撮っている」と信じているかもしれませんが、そもそもカメラが入っている時点でありのままの現実なんてありえません。

制作者の作意や意図は必ず入ります。写真を撮る時に位置や背景を考えるように、カメラが入ってどういうサイズで撮るか、どういう画角にするか。どういうシチュエーションにするかを考えます。撮影時にすでに意図は入っていますが、それをさらに編集によって再構成しているので、現実をゆがめていると言えます。

今回、唯一の例外は僕に対してぶっきらぼうに答えるヒクマさんの家の次女。普通日本人の家で取材すると、子どもたちも気を使って取材陣に対応するけれど、ありのままの素をカメラの前にさらしてくれた彼女は僕にとって新鮮でした。

――つまりそれは、制作者による現実の見方の一つである、と。それがユニークであればあるほど、見る人には面白いし、驚きになります。

あらゆる表現に通じることです。

何かを表現したい時、どういう風に見せるかは大事なことです。そこに必ず作意(作者の意図)は入るが、ドキュメンタリーに作意が入ることを否定的に捉える風潮があります。僕は表現者なので、そこは明確にしておかなければならないと考えて、日本はその認識が薄いので、あえて入れました。ありのままはあり得ません。

バンライファーの中川生馬さんはフリーランスで企業の広報をしながら生計を立てている。娘には「日記を毎日書くこと」を約束させているが……

――面白くみられるのは確かです。時代をさかのぼったコマ送りの県政の歴史はヒエーッという感じでした。時代を超えて知事候補者が同じキャッチフレーズを言っていて、その言葉が空疎。でもそれしか言えないのでしょう。選挙民たちも、ちょっとは変わってほしいけど、大きく変わっては欲しくないというのが本音かもしれませんね。

そうですね。そういうものも含んでいますよね。結局パフォーマンス重視で、中身のないことを言う政治家たちを支えてきた人たちがいる。そこには男性だけでなく、女性たちもいます。そこを見て見ぬふりをして加担してきた、ある意味の加害性も描いています。

――映画を見た人の反応は届いていますか?

大きく2つに分けられますね。県政、ムスリム、バンライファーの3つがつながっていることが何となくわかった、だからこそ考えさせられるものがあったという人と、3つの題材が相互に関連していないから、そこの絡みが分かりにくいという人と。

――3つを串刺すものは、ポスターに書かれているパターナリズム(家父長制)ですか?

明確に一言でこうだというものはありません。そこは見る人の自由です。

こちらは明確に意図として絡めているけれども、説明はしていないから。そこはある程度モヤモヤしてもらっても全然構わないんです。いうなれば、地下水脈でつながっているようなイメージを持ってもらえればいいかなと思っています。

――地下水脈? ということは人間にとっては根の深いところでつながっていると。

そう、だからなかなか変わらないで繰り返している。今回、編集する中で一つのテーマは「ループ」でした。そこは意図的に編集でも見せています。谷本正憲さんが知事を辞めて馳浩さんが新しい知事として登庁するシーンは意図的に一つの画角で見せました。ループを意識して、谷本さんが去って、来たと思ったら馳さんに変わってる。結局は同じことが繰り返されているのではというイメージで編集していますが、それを言葉で説明はしていません。

――私たちは「わかりやすい」ことが当たり前だと思わされているのかもしれませんね。

県庁の記者会見場で質問に手を挙げる五百旗頭監督。司会は「まだ質問されていない社の方はおられませんか?」と問いかけて……

「裸のムラ」のテレビ版を放送した後は完全に意見が2つに割れました。それぞれの題材は面白いのに、3つをつなぐものがわからない。それは、考えずに見られる番組を量産してきた日本のテレビ局の責任かもしれません。ながら視聴できるようにナレーションが多い。世界のドキュメンタリーに触れたりしている若い人たちには全く違和感はないと思います。僕は肌感覚で感じることをすごく大事にしています。

次回作の目星は何となくつけています。「東京や大阪で撮らないのですか」と聞かれることがありますが、僕は地方に日本の縮図となる題材があると思っています。その眼差しは今後も変わりません。地方だからこそ、強く出ているのもある。

ローカルに行けば行くほど、その土地では当たり前と思われていたものが、外の目から見ると「なんだ、これ!」ということがいっぱいあるのです。そういうものを探し出して、これからも番組なり映画なりで表現していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

 

【公開情報】10月14日(金)から京都シネマ、15日(土)から第七藝術劇場で公開中。順次元町映画館 で公開。

「裸のムラ」公式WEBサイト https://www.hadakanomura.jp/

 

©石川テレビ放送




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