【和ダイニング しろべえ】石川県金沢市
金沢といえば、昔も今も女性に人気の観光地だ。兼六園に金沢21世紀美術館、武家屋敷など、古い町並みとおしゃれな店がほどよく混ざっていること、日本海に近くて新鮮な海の幸が味わえることも魅力だ。新大阪からサンダーバードで2時間40分、雪が残る湖西の景色をながめながら金沢に向かった。
旅先では、観光客がいなくて、地元の人が日常づかいしている店を選びたい。金沢はとにかく飲食店の数が多いので、泊まったホテル「OMO5金沢片町」のスタッフさんによく行く店を訪ねた。星野リゾートが運営するOMO（おも）は現在全国に11施設あり、スタッフがOMOレンジャーと称して地域を深掘りし、宿泊客に紹介しているのだ。自分たちの足で探して食べて選んだ店のリストをストックしているので、本音を聞ける。今回教えてもらったのは、堅町の通称ファッションストリートにある和食の店「しろべえ」。東京にあるようなおしゃれなブランドが並ぶ商店街にあって、ブティックなどが閉店したあと、夜の時間帯は静かな雰囲気になる。
しろべえの店主、服部慎太郎さんは2021年に独立開業した。粟津温泉の創業700年以上という料理旅館、さらに1400年の歴史をもつ料理旅館などで腕を磨き、満を持してのスタートだったが、オープン2週間後にまん延防止等重点措置が発令された。出ばなをくじかれた形だが、時間があるときにできることをやろうと、内装に手を入れたり、新メニューを開発したりして、アフターコロナに備えた。そんな中でランチメニューとしてヒットしたのが、ブリステーキどんぶりだ。シメにこれを食べるのを目当てにカウンターに座った。
先付けは、菜の花の白和え、ホタルイカのチャンジャ、枝豆と数の子の辛子マヨネーズ。さりげなく早春を思わせる料理に、迷いなく白山市の地酒、菊姫の山廃純米を選び、山田錦の旨みがしっかりと感じて大満足。
続いて海鮮カルパッチョは、スライス玉ねぎと大根のケンの上に、あぶった生蛸、ヤリイカ、タイ、サーモン、甘エビなどがたっぷり。「サーモン以外は地物です。料理旅館時代からお世話になっている金沢の魚屋から入れています。野菜は古くからある近所の八百屋で選びます。本当にいいものがそろっているんです」と店主。
脂がのった冬のブリは、頭の部分の身がやわらかくて、いいダシが出るらしい。じっくり煮込んで味がしみたブリと大根のおいしいこと。ブリがさっぱりした味なのは大根がその脂を吸うから、そして脂の旨みを吸った大根はこっくりと濃厚な味に。自分で作る味とは違うな、とこぼすと「醤油と砂糖の加減です。両方バランスよく味を含ませるのが難しいんです」と店主は、自身が使っている地元金沢の鍋喜醤油のボトルを見せてくれた。さっそくネットで調べると取り寄せもできるらしい。
鶏つくねの湯豆腐、岩もずくの酢の物とおまかせの料理は続き、次なる地酒は上きげんの雷神に。あっさりするりと喉を通る、これは飲みすぎに注意せねば。
天ぷらは白子とカレイをさくっと揚げたもの。小ぶりのカレイは何もつけなくても、よい加減の塩味でなんともいえない味わい。実はこのカレイは、旅館の朝食に焼き魚としてよく出される通称「温泉カレイ」。つまりカレイの干物。「七尾港に上がった天然ものの一夜干しですが、ほどよい歯ごたえと塩味がちょうどいいんです」と店主。かつての同僚が店に来た時に、「温泉カレイを天ぷらにするなんて！」と笑われたが、ひと口食べて「あんたは天才や」とえらくほめられたそう。
そして、ついに締めごはんのブリステーキ丼。「温泉旅館時代に大雪で100人の団体さんがキャンセルになった時に、大量に余った高級なブリをどうするんだとなったんです。こんな機会はないからみんなで食べようとまかないにしました。その中で好評だったものにひと工夫加えて店で出したら大好評で」と。これがコロナ禍で生まれた新メニューとなった。ブリはバターでソテーして、甘めの醤油ダレをつけ、大根のケンとネギと一緒にごはんにのせる。ピリッときいたワサビも刺激になって、あっというまに食べてしまう。再度ブリと大根の組み合わせの妙に納得し、磯の香りが漂う岩のりのすまし汁で食事を締めくくった。
「一人で来た人が料理を待つ間に暇つぶしに読んでもらえたら」と湯呑みには、それぞれ違う文言が書かれている。でも、店主や接客を担当するお母さんと話しながら飲んだり食べたりしていたから、読む暇はなかった。また違う季節に冬とは異なる食材を味わいにこの店を訪ねようと思う。
◆ MENU（税込）
菊姫 山廃純米900円
上きげん 雷神900円
一品もの500円～
ぶりステーキ丼1,100円
コース5,500円～（要予約）
ぶりステーキ丼ランチ1,300円（ランチタイムのみ）
◆ Data
和ダイニングしろべえ
電話：090-9607-8815
住所：石川県金沢市竪町111番地 丹羽ビル1F
営業時間：11:00～14:00（LO）、18:00～22:00（LO）
定休日：不定休
◆ Writing / 松田きこ（ウエストプラン）
http://www.west-plan.com/
※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため対策した上で取材・撮影しています。
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