コロナ禍を経て規模の大きなお葬式が減り、より小規模な家族葬が増えているといわれる。高齢社会から多死社会へ向かう中で、この風潮は、これからどうなっていくのだろう。身近な人を見送る立場になった時、また、自身の終活を考える時、手掛かりになりそうな本が今秋、出版された。
最近の葬送事情をQ&Aスタイルと葬送業界で働くプロ8人へのインタビューでわかりやすく解説した「葬送のお仕事」(井上理津子著)だ。解放出版社(大阪市港区)が小学校高学年から中高生向けと銘打って出版している「お仕事探検隊」シリーズ*の第3弾なので、ほとんどの漢字にルビが振られているが、内容は大人が読んでも読みごたえ十分だ(何より、老眼で小さい活字を読みにくく感じている人には大きい文字が読みやすくてうれしい)。
*「お仕事探検隊」シリーズは、人々の暮らしに欠かせない大事な仕事でありながら、その実態があまり知られていない仕事を具体的に紹介するもので、既刊は実際にその仕事に携わる人が書いた「屠畜のお仕事」「ごみ清掃のお仕事」がある。
4部構成で、第1部のタイトルは「死ぬ」とは、だれかにケアされること。死ぬと体にどんな変化が起こるのか、死んだ後には具体的にどんな手順で見送りが進行していくのか、などを、著名人や映画「おくりびと」エピソードなどを交えながら、イントロダクションとして概観していく。
第2部は「葬送のお仕事」のリアルを見てみよう。病院で死んだ時、直後のケアをする看護師、その後を引き継ぐ葬儀社、葬祭ディレクター、湯灌師、納棺師、復元師、遺体保全師、エンバーマー、火葬場職員などの具体的な仕事内容を解説する。第3部「葬送のお仕事」のプロに聞いてみようでは、第2部で見てきた仕事に実際に就いている20~40代の8人に、なぜその仕事をしようと思ったのか、スキルはどこで身につけたのか、コロナ禍ではどんな対応をしたのか、やりがいは何か、などをインタビューで具体的に聞き出していく。
読み進めながら思うのは、葬送業界の仕事は、まさにエッセンシャルワーク(人々が日常生活を送るうえで欠かせない仕事)だということ。コロナ禍では、医療従事者をエッセンシャルワーカーとして社会で応援しようという動きがあったが、葬送業界の人々も、まさにエッセンシャルワーカーだ。
そして第4部は「葬送と社会」のこれまで・これから。葬送業界への取材歴10年を超える著者の本領が発揮される。井上さんは「お葬式の形や携わる人たちに向けられるまなざしが、古今どう変わってきたのかなどについて記しました。例えば、お通夜やお葬式に参列すると、多くの場合、帰りに渡される『清め塩』。死をケガレと捉えることが根底にあり、葬送関係の職業人を『ケガレた人』と見なすことにつながってきた悪習だといったことにも触れたので、そうしたことを考えるきっかけになれば。取材を通じて今、故人・遺族の個別の事情、志向性に沿ったお葬式の時代がきていると実感しました」とコメントしている。
見送りは故人を悼む遺された人のために
私事で恐縮だが筆者は今年9月、40年余りをともに暮らしたパートナーを入院から2週間足らずで見送ることになった。高校教師を早期退職して在野の研究者となり10年。67歳の早すぎる死だった。コロナ明けからフィールドワークや講演の依頼が増え、体調不良に気づいた5月以降、毎日のように医者にかかるように勧めたが、生来が医者嫌いの頑固者で体力には自信があり、忙しさを理由に受診を後回しにしてきた結果だった。
とはいえ、10月には研究会の全国大会での基調講演という大仕事も控え、つい2週間前まで今後の予定について連絡を取り合い、様々なことをともに進めてきた研究仲間や教え子を含む友人らにとっては寝耳に水の出来事だ。
何がどうして、こうなったのか――。知りたい人が多いだろうと容易に想像がついたので、家族で話し合って、小規模な家族葬ではなく、彼の死を悼んでくださる方ならどなたでも参加いただける通夜と告別式を無宗教で行うことにした。
喪主である私のスピーチがメインの通夜の参列者は約180人。学生時代の山岳サークルの友人、教師時代の同僚、リタイア後の研究仲間の3人が送別の言葉を読むことに快く応じてくれた告別式には約100人が参列し、参列者の皆さんから「よいお別れだった」と声をかけていただいた。
その間、私たち家族に寄り添い、さりげなくサポートしてくださった葬儀社の皆さんは、まさにプロの仕事をされていたと思う。
「故人を見送ることは、生きている人のため、遺された人のために行うもの」と聞いたことがある。自身の経験から、それも一つの真理だと思う。見送りのしかたには唯一の正解はなく、故人の数だけ、やり方があるのだと思う。しかし、大切な人の死は不意に訪れ、その後は待ったなしの展開が待っている。その時に役に立つ知識と情報は、常日頃から仕入れておくに越したことはない。
この本は、そんな知識と情報を手に入れたい人にも格好の手引書といえるだろう。(大田季子)