【PACファンレポート⑪ 第95回定期演奏会】
大規模修繕を経て3カ月ぶりに開かれた兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会は、オール・エルガー・プログラム。イギリスを代表する世界的な作曲家の、抒情的な美しさを持ちながら「精神の若さ」としか形容しがたい緩急自在な急降下と飛躍をはらむドラマチックな大曲2曲を、イギリス人指揮者ジョセフ・ウォルフがきびきびとしたタクトさばきでまとめ上げ、門出の春にふさわしい演奏会だった。
エドワード・エルガー(1857-1934)の「威風堂々」や「愛の挨拶」のメロディーは、あまりクラシック音楽を聴かない人でも「あ、聞いたことがある」と思うだろう。
脱線して申し訳ないが、「威風堂々」といえば私にはすぐに思い出される映画がある。
それは、手塚治虫原案の「トイレのピエタ」(2015年、松永大司監督作品)。昨年、映画「君の名は。」の音楽を担当して大ブレイクしたRADWIMPSのヴォーカル&ギターの野田洋次郎の映画初主演作で、若手成長株の女優・杉咲花との共演作だ。彼はこの映画で、第39回日本アカデミー賞の新人俳優賞ほかを受賞している。
余命いくばくもないと告げられた主人公(野田)が、故郷と訣別する決意を固めたと思しきシーンで、野で風に吹かれながら「威風堂々」を低く口ずさんでいた。心に秘めた静かな決意を暗示させ、観終わった後も瞼に残る、とても印象的なシーンだった。
本題に戻ろう。
演奏時間50分に及ぶ「ヴァイオリン協奏曲」は、高度な演奏技術が求められる大曲だ。作曲家のエルガー自身がヴァイオリニストであったため、自ら創案したと言われる「ピッツィカート・トレモロ」という特殊な奏法が面白みを生んでいる。大編成のオーケストラと対峙して、見事な演奏を聴かせたソリストは漆原朝子。春らしく明るいゴールデンイエローのドレスをまとい、一貫して自信にあふれ、迷いのない演奏で楽団をリードし、観客を陶酔の世界に導いた。
20分間の休憩の後は「交響曲第1番」。こちらも大編成のオーケストラが、それぞれの楽器の持ち味を遺憾なく発揮する、約55分に及ぶ大作だ。この曲を書いた時、エルガーはすでに50歳になっていたといわれるが、曲からあふれ出るパッションは青年のようにみずみずしく、PACの演奏曲にふさわしい。
勇壮と優美、端正と破調、剛毅と繊細……。相反する曲想が、大胆に飛躍する曲の運びとリズミカルに疾走する金管と躍動する弦楽器を効果的に使って表現される。時に夢のような美しいフレーズが木管とハープからこぼれ、そこに浸っているとティンパニの大音量が、別世界への扉を開ける。それはまるで、滔々と流れる時間の大河を小舟で渡っていくようなスペクタクルな体験だった。
コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーにホルンのジョナサン・ハミル(東京交響楽団首席)、トランペットの佐藤友紀(同)。スペシャル・プレイヤーにN響第2ヴァイオリン次席の白井篤、山形交響楽団ヴィオラ首席奏者の成田寛、トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ首席チェリストの金子鈴太郎、新日本フィル コントラバス首席奏者の渡邉玲雄、N響ティンパニ首席奏者の久保昌一(今回はパーカッション担当で出演)。
ヴァイオリンとヴィオラの演奏者リストにはPACのOB・OGら9人の懐かしい名前もあった。本屋大賞と直木賞をW受賞した恩田陸「蜜蜂と遠雷」を夢中になって読んだ後だけに、若き音楽家たちの人生に幸いあれと祈らずにはいられない。(大田季子)
【お知らせ】
2017-18シーズンのPAC定期会員券の販売は5月31日(水)まで。お買い忘れなく!
月に一度のPACの定期演奏会に足を運ぶ習慣は、私の人生に大きな喜びを与えてくれています。皆さんも、この喜びを味わってみませんか?
定期会員券は1回券よりもお得な料金設定が一番の魅力。例えば1回券だと4千円のA席が1回あたり3千円(9回通し2万7千円)になります。金・土・日曜のいずれかを選び、毎回同じ曜日に同じ席で演奏会を聴くことができます。購入者本人以外も利用OKのチケットなので「この日は用事で行けない」という時は、家族や友人にプレゼントして代わりに楽しんでもらうこともできます。
このほかの特典は●室内楽演奏会を特別料金で●オーケストラ紹介パンフレット進呈●公開リハーサルへご招待●PACオリジナルグッズプレゼント。
詳しくはホームページで。 http://hpac-orc.jp/season_ticket.php