色とりどりの花火の乱舞を思わせた陶酔のラヴェル~兵庫芸術文化センター管弦楽団第98回定期演奏会~

【PACファンレポート⑮ 第98回定期演奏会】

 8月12日、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の第98回定期演奏会は盛夏のみぎり、趣向を凝らした打ち上げ花火のような芸術の花を見事に咲かせ、深い満足感に浸れる素晴らしい演奏会だった。

 例年6月がシーズン最終の定期演奏会なのだが、大規模修繕のあった今年は異例の8月にラヴェルゆかりのプログラム。フランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督を務めるパスカル・ロフェが初登場し、若いPACメンバーたちの情熱を見事に引き出してまとめ上げ、2016-17シーズンの有終の美を飾った。

2017年8月のプログラムの表紙。寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)はラヴェルのピアノ協奏曲を聴きながら描いたという

 

 近代フランスを代表する印象派音楽の大作曲家モーリス・ラヴェル(1875-1937)は非常におしゃれな人だったという。彼の曲は、そのおしゃれで洗練された感じが一番の持ち味だと思う。

 冒頭は組曲「クープランの墓」。ピアノ曲では聴いたことがあったが、管弦楽版を生で聴くのは初めて。お盆だからお墓なのではなくて、この「墓(トンボー)」は偉大な先人に捧げる「オマージュ(讃歌)」の意味だという。

 フランス音楽の形容には「色彩豊か」という言葉がよく使われるが、まさにこの曲も微妙に音色の違う木管楽器を巧みに組み合わせ、弦とともに小さな弧を描きながら、時空に色とりどりの小さな花々を咲かせているイメージで聴いた。

 それはまるで目くるめく音楽の花束。時折差し挿まれる美しいハープの調べに首の後ろがうっとりと反応する。高揚した気分をさらに彼方へと運ぶホルンとトランペット。連続してポンポンと夜空を彩る花火のような音楽に気持ちよく酔った。

 

 明るい空色のドレスをまとい、ソリストで登場したピアノの萩原麻未は、ジャジーなムード漂う「ピアノ協奏曲」を聴き応えたっぷりに演奏した。鍵盤の上をすべるように動く白い指は複雑なテンポを正確に弾きこなし、繊細にきらめく流れとほとばしる激情をしなやかに行き来する。その名演奏に刺激されて、オーケストラも必死に食らいつく。

 指揮者のロフェと萩原が、この曲を共演するのは3度目。最初は2010年に萩原がジュネーヴ国際コンクールで優勝した時の最終審査。今年5月のラ・フォル・ジュルネ音楽祭(東京)で再演した。ロフェはプログラムのインタビューで「(2010年)当時の彼女はまだ“道半ば”といったところでした。(中略)しかし、(今年5月の)演奏は実に素晴らしく、彼女は自分の道を見つけたのだと実感しました」と、萩原の成長と努力を心の底から称えていた。そんな信頼関係に基づいて構築された演奏は本当に素晴らしく、私は精巧な仕掛け花火を見る思いがした。

 萩原のアンコール曲はドビュッシーの「月の光」。興奮した聴衆をやさしく慰撫するように包み込んだ。

演奏会終了後には、PACのコアメンバーたちがロビーに出てきて聴衆を見送った

 

 

 

 休憩をはさんで最後はロシアの作曲家ムソルグスキー(1839-1881)の組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)。約90人の大編成の管弦楽は、さらに豊かに彩りと輝きを増した。パーカッションはおなじみのティンパニや大太鼓、シンバルに加え、スネア・ドラムやタムタム、グロッケン、シロフォン、鐘、ラチェット、鞭まで登場しての5人編成。

 4つのプロムナードと10の小曲は、それぞれに趣が異なって楽しい。時に軽妙、時に壮麗……ロックバンドのカバー実績もある人気曲だけに、クラシックファンならずとも聞き覚えのあるフレーズが度々登場する。「このメンバーで演奏するのは明日限り」。PACメンバーの胸に去来していたであろう万感の思いを込めた演奏を受け止め、導くロフェのタクトさばきのスマートなこと! まさに大輪の花火を打ち上げたような演奏会に、聴衆は惜しみない拍手を送った。

 何度も舞台に呼び戻されたロフェは指で「ちょっとだけ」と示し、組曲の中から「卵の殻をつけた雛鳥の踊り」をアンコールで演奏。フルートの知久翔、オーボエの吉村結実の粋な掛け合いをもう一度、楽しんだ。

 「フランスで今もっとも旬な指揮者」と言われるパスカル・ロフェとPACが再び共演してくれる日を待ち望まずにはいられない。

 コンサートマスターは四方恭子。ホルンの木川博史(NHK交響楽団首席)と並び、ゲスト・トップ・プレイヤーで参加したクラリネットのロバート・ボルショス(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)はPACのOB。スペシャル・プレイヤーにはホルンの五十畑勉(東京交響楽団首席)、トランペットの佐藤友紀(東京交響楽団首席)、パーカッションの奥村隆雄(元京都市交響楽団首席)が参加した。

(大田季子)




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