【ストークス通信⑫】最多の観客が見守った開幕戦 ”挑戦”のシーズンが始まる

 9月30日、今季からB1に昇格した西宮ストークスは、西宮市立中央体育館に千葉ジェッツを迎え、開幕戦を戦った。会場にはクラブ史上最多となる2695人の観客が詰めかけ、“わが町のクラブ”の記念すべきB1デビュー戦を見守った。

2695人の観客で埋まる西宮市立中央体育館

 迎え撃つは、昨季B1のチャンピオンシップに進出し、今年1月の天皇杯では優勝を勝ち取った千葉ジェッツ。富樫勇樹選手をはじめ日本を代表するプレーヤーを擁し、B1屈指の観客動員力を誇るまぎれもないビッグクラブだ。ストークスにとっては、昨季B2で確立してきた「堅守速攻」「チーム全体で戦う」スタイルがB1でも発揮できるか、その「試金石」としてはうってつけのクラブが相手だ。

 序盤、千葉に先制を許すものの、谷口淳選手のジャンプショットですかさず同点。その後も主将の谷直樹選手の3ポイント、新加入の大塚勇人選手のシュートも決まり、会場のボルテージは早くも最高潮となる。大型ビジョンやカラフルな照明が新設され、昨季よりもはるかにグレードアップした会場演出も、盛り上がりを後押しする。

 しかし、ここから千葉の、B1強豪クラブとしての“面目躍如”の時間帯が始まる。富樫選手の巧みなゲームメイク、また各プレーヤーの高精度のシュートが次々とリングに吸い込まれ、第1Qは19-25と6点のリードを許して終了した。

千葉のキープレーヤー・富樫勇樹選手(中央)

 ストークスも、新加入のコナー・ラマート選手が、早くもチームにフィットして17得点。谷選手も気を吐いての18得点と、ゲームを通じての光明も見えたが、谷選手が「一人の選手がボールを持ち続ける時間が長くなってしまった」とゲーム後に振り返ったように、チーム全体でボールを回して崩す本来のオフェンスは、この開幕戦では影をひそめた。逆に、それをさせないポイントを絞ったディフェンスと、第2Q以降も確実なシュートで得点を重ねた千葉が試合巧者ぶりを発揮し、ゲームの主導権を終始握り続けた。

上々のデビューとなったコナー・ラマート選手

 B1初舞台となる開幕戦を、70-86の敗戦で終えたストークスの天日謙作コーチは、ゲーム後の会見で「残念でした」と悔しさを押し殺すように第一声。「僕らが(B1で)最初にやるチームとしてはすごくよかった。(B1の)トップチームは、これくらいの基準なんだと(わかった)」と、来年5月まで続くリーグ戦を見すえて前を向いた。

 

 谷選手も「勝てなくて素直に悔しい。悪かったところをチームで直してコツコツと積み上げていきたい」と今後への巻き返しを誓った。

 

 記念すべき開幕戦を見守った一人、大阪市の宮本智史さんは上司に誘われての初観戦。「めちゃくちゃ楽しかった。負けたけれど次も来たい!と思った」。バスケットボール経験者の35歳。「いいところもたくさんあった。今後につながる負け。次は絶対勝ちますよ」と次回以降の観戦を心待ちにしていた。

 

 結果的には“B1の洗礼”を浴びることになったストークスの開幕戦。しかしチームもファンも、誰ひとりとして下を向いていない。むしろ、今後も続くB1という未知のステージでの戦いに、高揚を感じているようにも見える。チームスローガンでもある“挑戦”のシーズンは、始まったばかりだ。(伊藤真弘)

 

【開幕戦取材後記】

 Bリーグでは「アリーナ収容キャパシティのうち85%以上の入場者数の試合」を「満員試合」と定義している。その定義に基づけば、9月30日の開幕戦は「”超”満員試合」と言ってもいい。指定席は完売、2階自由席には立ち見も出るほどの、2695人の観客で埋め尽くされた光景は、圧巻だった。

 

 アリーナを一歩出ても、昨季とは明らかに違う盛り上がりを感じられた。グッズ売り場や飲食ブースには長蛇の列。ゲーム開始15分前にもかかわらず、会場の外で入場を待つ人も。会場では、その日からファンクラブに入会できる受付ブースを設けており、こちらも絶え間なく入会希望者が訪れた。ブース担当者によると「試合当日入会してくださる方は、昨年と比較して2~3倍」だという。入場口では、来場者にプレゼントされる限定の記念Tシャツが用意された。みるみるうちに、アリーナが緑一色に染められていった。

チームカラー・緑色の開幕記念Tシャツが配布された
ファンクラブの会員証を端末にかざすと来場ポイントがたまり、ポイント数に応じて様々なプレゼントが用意される

 そんな中、赤いユニホームを着た千葉ジェッツファンも多く見られた。この日、千葉市から観戦の松本陽子さん(32)と平野佳那さん(27)は、初めて西宮を訪れた。昨季も沖縄でのアウェーゲームに駆け付けるほどの熱心さだ。西宮の印象は「会場に手作り感があって、すごくあたたかい」。ハーフタイムにストークスの印象を聞くと「これから絶対強くなるチームだと思う。同じB1で、共に頑張りましょう! でも、ジェッツは負けませんけどね(笑)」とエールを送り、ゲーム後は西宮市内で一泊し「たこ焼き」を食べるのが楽しみ、と教えてくれた。

 9月30日、この日西宮を包んだかつてないムーブメントを、一過性のもので終わらせてはいけない。そのためには、次も来たいと来場者に思わせる会場づくり、魅力あるチームづくりに向けた不断の取り組みが必要なのは言うまでもない。また、一部のJリーグクラブが行っているように、相手チームのファンに地元の観光情報を発信し、西宮で過ごす時間を満喫してもらうなど、交流人口の満足度アップも図ってはどうか。日本酒、スイーツ、阪神間モダニズムの薫り。西宮には、全国に散らばる各チームのファンに誇れる魅力があるからだ。

 ゲーム後に残した、谷選手のコメントがすべてを物語っている。

 「多くの方に集まっていただいて、うれしかったし、勝ちたかった。継続してこれだけ(お客さんが)来てくれるように、いい試合をして、勝ち星を積み上げていきたい」 




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