【PACファンレポート⑰第100回定期演奏会】
何かを100回続けるって、大変なことだと思う。兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)定期演奏会も10月で100回!すごいなあ、継続は力だなあと思いながら少し早めに足を運んだ10月14日、開演前にサプライズが待っていた。
「ロビーコンサートをやりますよ!」
案内の声に促されて急ぐと、赤いひな壇に飴色の弦楽器を抱えたPACメンバーが登場。
「京都出身の佐々木賢二(チェロ)と、岡山出身で笑顔が素晴らしい奥田敏康(コントラバス)、2人とも1年目です!」。軽い自己紹介の後で始まった弦楽二重奏は、ロッシーニ「チェロとコントラバスのための二重奏曲」より第2・3楽章。「こんなに間近で演奏するのを見たのは初めて。楽器によって弓の持ち方が違うんだね」。背後から聴衆のささやき声がした。
続いて登場したのは弦楽四重奏。第1ヴァイオリン(タイール・キサンベイエフ)とチェロ(エリナ・ファスキ)はロシアから、ヴィオラ(デイヴィッド・メイソン)はアメリカからの新メンバーだと、第2ヴァイオリンを務める2年目の浅野みけらが紹介し、PACの国際化が一段と進んだと感慨深い。
演奏曲はクライスラーの「愛の喜び」と「美しきロスマリン」、チャイコフスキー「くるみ割り人形」より“トレパック”。約20分間のぜいたくなひと時だった。
さて、演奏会本番。ルーマニア生まれ、イスラエル育ちの指揮者ヨエル・レヴィが初登場。ロリン・マゼールのもとで研鑽を積み、現在、韓国のKBS交響楽団で音楽監督兼首席指揮者を務めているマエストロは、東アジアの演奏会への登場が増えているという。
ゾルタン・コダーイ(1882-1967)の「ガランダ舞曲」とソリストにピョートル・アンデルシェフスキを迎えてのベラ・バルトーク(1881-1945)の「ピアノ協奏曲 第3番」。ハンガリーの民族音楽を研究して作品に取り入れた二人の作曲家たちの独特の舞曲のリズムは「自分の体に染みついている」と、レヴィはプログラムのインタビューで答えている。
公開リハーサルでのマエストロは、まるで「湧き上がれ」と指示するかのように、前傾姿勢で膝の下から上へ両手を大きく動かし、パッションあふれる音を要求していたが、本番で指揮棒を持つと、一つひとつの動きが武道の形のようにメリハリが効いてシャープだ。それもそのはず、「空手は黒帯で、合気道も習った」という猛者なのだ。
PACの「ガランダ舞曲」は哀調を帯びた曲調の中にも、楽しげなフレーズが元気よく弾ける。大事な場面でクラリネットのソロを務めたリリー・モルナーも新メンバー。今後、どんな演奏を聴かせてくれるのか、楽しみが増えた。
「同世代で傑出した音楽家の一人」といわれる、ソリストのアンデルシェフスキもPACとは初共演。亡命先のアメリカで最晩年に作曲されたバルトークの「ピアノ協奏曲 第3番」は、ピアノという楽器の孤高さを際立たせる、非常に美しく起伏に富んだ曲だった。
アンコールでは、バルトーク「3つのチーク県の民謡」を披露。長身の彼の大きな手がピアノの鍵盤の上を動くと、ピアノのサイズがいつもより小さく感じた。
休憩をはさんでの演奏は、セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)の「ロメオとジュリエット」組曲から9曲をセレクトしての構成(第1組曲から3曲、第2組曲から6曲)。冒頭の「モンタギュー家とキャピュレット家」のドラマティックなメロディーはCMなどでもおなじみ。「少女ジュリエット」を聴くと、中学生の時に初めて映画館で見た洋画のジュリエット、可憐なオリビア・ハッセーの横顔が脳裏に浮かんできて……演奏会中なのに、なんだか頭が昔に戻って「映画館を出た後、しばらく日本語が聞き取れなかったっけ」とか、いろんな思い出が去来してしまった……。
PACのアンコール曲は、チャイコフスキー「白鳥の湖」より“ハンガリーの踊り”。100回を迎え、新しい才能が次々に集って目が離せないPACの定期演奏会を見事に締めくくった。
コンサートマスターは四方恭子。ゲスト・トップ・プレイヤーにはペーター・ヴェヒター(元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラのユルゲン・ヴェーバー(元バイエルン放送交響楽団首席)、チェロの西谷牧人(東京交響楽団首席でPAC第1期生)、コントラバスの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)、オーボエの髙山郁子(京都市交響楽団首席奏者)、ティンパニの近藤高顕(新日本フィルハーモニー交響楽団首席)が参加。
スペシャル・プレイヤーには、PACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)と、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)が参加した。(大田季子)