念願の舞台、B1昇格を目指すこの1年
西宮市を本拠地とするプロバスケットボールチームが今、飛躍の時を迎えようとしている――。
大きな注目を集め、昨年9/22に開幕したバスケットボール男子のプロリーグ「Bリーグ」。開幕戦の「アルバルク東京」vs「琉球ゴールデンキングス」は早々にチケットが完売したほどの過熱ぶり。両チーム一進一退の手に汗握る攻防は、まるでライブコンサートのような、光や映像を駆使した最先端の演出で鮮やかに彩られた。とりわけ、コート全面をLEDで映した世界でも類を見ない演出は、会場に強烈なインパクトを残した。その日、代々木第一体育館を埋め尽くした9132人の観客は、エンターテインメント性を前面に打ち出した新たなプロスポーツの幕開けの目撃者となり、ムーブメントの到来を確信したはずだ。
そんなBリーグにあって、西宮ストークスはトップカテゴリー「B1リーグ」への来季昇格を目指し、現在「B2リーグ」のシーズンを戦っている。昨年9月から5/6(土)まで続く計60試合の長丁場は、6試合を残すのみ。B2中地区の首位に立ち、5/11(木)から始まる、B1昇格をかけたプレーオフへの進出を射程圏内としている(4/21時点)。
「B2リーグ全体を見渡しても、ストークスにはレベルの高い選手がそろっている。開幕当初から『優勝して(B1に昇格するのが)当たり前だよ』と選手には言ってきた」。西宮ストークスを運営する兵庫プロバスケットボールクラブ社長の福島潤(41)は話す。
言葉通り、開幕後は連勝街道を突き進むが、チームの司令塔的存在の竹野明倫が11月に負傷離脱。その影響もあり一時は敗戦を重ねたが、シーズン途中に補強した選手がチームと戦術にフィットし始め、再び上向き調子に。竹野の代わりを務める選手もたくましく成長を遂げた。「スター選手が目立つというより、一人ひとりの力を結集し、総合力で勝つのがストークス。シーズンを通じて、そのスタイルが確立された」と、ここまでの戦いを振り返る。
ストークスと地域が築く、良い関係
ホームゲームの大半を開催するのが、西宮市立中央体育館。市の全面的な協力を得て、2023年までに5000人規模を収容できるアリーナに改修されることが決定している。同時にこれはB1リーグの参入条件である「5000人規模を収容できる本拠地アリーナの確保」を満たし、3/1には念願の「B1クラブライセンス」がリーグから交付。来季以降、B1リーグで戦う資格を得た。
「体育館の優先利用や利用料の減免など、市には有形無形のサポートをいただいている。あとは、B1昇格プレーオフを勝ち抜くだけ」。福島は改めて決意を語る。
もちろん、市からの援助を受けるだけでは終わらない。チーム理念「地域自生~西宮市を中心とした兵庫県内で自らが地域に根をはり、バスケットボールを通じて子どもたちや地域を元気にします~」を実践すべく、地域に積極的に歩み寄り、働きかける。
県内各地で行う「バスケットボールクリニック」は典型例の一つ。ストークスの選手自らが子どもたちにバスケットボールを指導。時には小学校の体育の授業に出向き、バスケをやったことのない児童にその楽しさを知ってもらうことから始める。中学校の授業時間を提供してもらい、プロ選手の立場から「夢」について生徒に語り掛けたことも。学校のクラブ活動で本格的にバスケに取り組む子どもたちには、実際のゲームで使えるより実践的なスキルを教える「ワンポイントクリニック」も開く。チームを指揮する天日謙作、高橋哲也のコーチ2人は、行政からの依頼で、市内のバスケ指導者を対象に「指導者講習会」も行う。有料で定期的に実施する「バスケットボールスクール(小学生向け/成人向け)」「チアダンススクール」も盛況だ。初心者からプレーヤー、子どもから大人まで、そして指導者まで。実に様々な層に働きかけ、バスケという共通言語を通じて、チームと地域の「良い関係」を築く。
さらに広めたい、チームカラーとロゴマーク
市民有志もストークスのために「ボランティア」として応える。ホームゲーム開催時、養生シートを敷き、椅子を並べ、特設のひな段などを設営。通常は板張りの西宮市立中央体育館を、開催ごとにプロバスケットボールのゲーム会場にふさわしい「アリーナ」として準備しなければならない。ゲーム後には撤収作業もある。その際に、ボランティアのマンパワーは不可欠だ。さらにゲーム当日、開場してからは、チケットのもぎり、客席誘導、売店ブースでの接客など、その役目は多岐にわたる。西宮市下だけでなく神戸市、明石市、姫路市などから50人以上がボランティアに登録し、それぞれの思い入れでストークスを影から支えている。特定企業をバックに持たない「市民球団」ならではの存在に、福島は絶えず敬意を払う。「ボランティアのみなさんの力なくしては、ホームゲームは絶対に運営できない」
チームは今シーズン、ホームゲーム開催時の総来場者数目標を30,000人と設定。残りホームゲームは4試合、現在は25,429人(1試合平均1,151人)と、達成は手の届く所まで来ている。しかし、手綱を緩めることはない。今でも週に1度、西宮市立中央体育館の最寄り駅・阪急西宮北口駅やJR西宮駅などで、来場を募るチラシ配布を行う。
「実感として、Bリーグを認知している人はまだまだ少ない。知っている人の中でも、リーグを戦うチームが西宮にあることを知らない人もいる。自分たちから打って出て、シンボルカラーの緑やチームのロゴマークを広める行動を、どれだけ地道にやれるか」。スポーツの普及活動は“選挙”と同じだ、と福島は信じている。
地域に浸透するためにさらに必要なことは?の問いには、こう答える。「まずは我々のゲームを見て『元気に』なってもらえるようなチームになること。バスケをやっている人、関わっている人の夢や目標になれるような、強いチームになること。ホームゲーム開催時には、観戦後のお客さんで西宮北口周辺の飲食店が潤うような、そんなプラスの波及効果を地域にもたらせるような存在になること」
念願のB1昇格まで、あと一息。チームは1人でも多くの後押しを必要としている。「ネットやフェンスもなく、野球やサッカーと比べてもバスケは選手が間近。ゲーム中に選手同士で掛け合う声もよく聞こえる。攻守交替の展開が目まぐるしくスピーディーなので、初めて見るお客さんの中には『ハマった!』と言って帰って下さる人もたくさんいる。会場と選手の一体感を、私たちのホームアリーナでぜひ味わってほしい」 (文中敬称略・写真はすべて西宮ストークス提供)
<取材後記>
筆者も4/1にストークスのゲームを初観戦。バスケに、そして西宮ストークスに「ハマった!」1人だ。プロ野球、Jリーグ、アメフットをはじめスポーツを観るのが好きで、趣味の欄があればスポーツ観戦と必ず書く。が、バスケのように屋内で行う“アリーナスポーツ”を観るのは、ほぼ初体験。屋根があるので、屋外スポーツのように歓声が上空に逃げない。会場にこもり、それが独特の一体感を醸成するのだ。試合はストークスの敗戦だったが、終了間際に追い上げのゴールが決まった瞬間、会場全体から一斉に沸き上がった「ワッ!!」という歓声の残響は、今でも耳に残っている。
会場演出も新鮮だった。相手チームがボールを保持し、ストークスが防御に回っている時は、相手を威圧するような重低音が鳴り響く。逆にストークスがボールを奪い攻撃に転じると、アップテンポな音楽に切り替わり、敵陣に向かい一斉に駆け上がるストークスの選手を勢いづける。明らかにホームチーム寄りの演出は、会場の一体感をより濃密にする。身長167センチの筆者は“生ダンクシュート”も初めて見て、純粋に感動した。とりわけ身長216センチを誇るジョーダン・ヴァンデンバーグ選手のダンクは、一見の価値ありだ。
残念ながらムーブメントに少しだけ乗り遅れ、昨年9月の歴史的なBリーグ開幕戦の「目撃者」にはなれなかった。しかし、わが町のチーム・ストークス(兵庫県の県鳥・コウノトリの意)が、B1昇格の頂へ羽ばたくその瞬間の「目撃者」になる気は、今から満々だ。(伊藤真弘)
【今後のホームゲーム】※会場はすべて西宮市立中央体育館
●4/22(土)17:00、23(日)15:00 vs信州ブレイブウォリアーズ
●5/5(金・祝)17:00、6(土)15:00 vs東京エクセレンス
西宮市内小学生無料招待、兵庫県内在住・在学・在勤者を対象とした割引、西宮ストークスのホームゲーム初観戦者を対象とした割引あり。
※https://www.storks.jp/news/ticket/で事前申し込みが必要
【ストークス通信】では、西宮ストークスの今と、西宮ストークスのある街の風景を追います。
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