イッサーリス初登場! 秋にふさわしいドヴォルザークの郷愁に酔いしれた~兵庫芸術文化センター管弦楽団第110回定期演奏会~

【PACファンレポート㉖第110回定期演奏会】

 いつもは土曜日に行く兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会。今月はどうしても外せない用があり、金曜日のチケットを取って駆け付けた。聴き逃さなくて良かった! クリスティアン・アルミンクの指揮で、清澄な秋の空気が似合うオール・ドヴォルザーク・プログラム。初登場のソリスト、スティーヴン・イッサーリスの存在感も相まって、いつまでも記憶に残る大満足の演奏会だった。

 

 イッサーリスは、イギリス王立音楽アカデミーから貸与された1726年製のストラディヴァリウス「マルキ・ド・コルブロン(ネルソヴァ)」を携えてゆったりとステージ中央のソリスト席に登場。オーケストラの演奏が始まると、それぞれの楽器の音色に耳を澄まし、音の連なりに体を預け、まるで全身をメロディーの波に同化させようとしているかのよう。そのメロディーと呼応するようにイッサーリスが紡ぎ出してきた音は、人肌のぬくもりを帯びて懐かしく深く心に沁み入ってくる……。

 数ある作曲家のチェロ協奏曲の中でも、アントニーン・ドヴォルザーク(1841-1904)の「チェロ協奏曲」は屈指の大傑作といわれる。チェコ最大の作曲家が祖国を離れ、約3年のアメリカ滞在の最後に作った名曲で、憂愁と郷愁にあふれた旋律が、もの思う風情で次々と、しかしあくまでも静かに繰り出される。時折性急になる弦の動きの合間を縫うように、繰り返される木管楽器との相聞。その対比が生む類まれな美しさ。神経をピンと張りつめて互いの音を聴き合い、心を寄せ合った演奏は、記憶の中に眠る懐かしさを誘い出し、心に沁みた。

 イッサーリスのアンコール曲は、1925年生まれのジョージアの作曲家ツィンツァーゼの「チョングリ」。弓を使わない、全曲ピッチカートの見事な演奏に目を見張った。鳴り止まぬ拍手に、愛器を左手で肩の高さに持ち上げ“おじぎ”をさせて応えたチェリストは、ひょうきんな一面もありそうだ。

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描く2018年11月のプログラムの表紙は青が印象的なパレットの上の世界

 オーケストラの曲は「交響曲 第7番」。穏やかに始まる導入部に続き、内に秘めた激しさが時々噴出してくる第1楽章、民族主義的な色調の中にドラマチックな展開が待ち受けている第2楽章と第3楽章、さらに劇的な膨らみが広がる第4楽章。貴公子アルミンクは、協奏曲を指揮した時とは打って変わって、曲の盛り上がりに合わせて指揮台の上で長身の体を激しく上下させて楽団を鼓舞する。演奏するPACメンバーの紅潮していく顔、顔、顔……。演奏会の醍醐味を存分に味わった。

 PACは2015年2月の第76回定期演奏会でも下野竜也の指揮でこの曲を演奏している。プログラムで確認してみると、その時も参加していたメンバーはヴァイオリンの北島佳奈と大竹貴子、ヴィオラの仁科友希がいた(北島と大竹は当時もOGとしての参加、仁科はコアメンバーだった)。同じ曲を違う指揮者のタクトに導かれて奏でる時、一体どんな気づきや学びがあるのだろう。演奏家ではない私は想像するしかないが、一途に精進する中では、きっとハッと喜びに満ちた瞬間があるに違いない。

 PACのアンコール曲は、ドヴォルザーク「スラブ舞曲 第10番」。交響曲と同じく民族音楽の色彩が強く、哀調を帯びる調べの中に不思議な明るさが漂う曲だった。

 

 コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの田尻順(東京交響楽団アシスタント・コンサートマスター)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席・神戸市室内合奏団奏者)、チェロの林裕(元大阪フィルハーモニー交響楽団首席)、コントラバスの加藤正幸(元東京フィルハーモニー交響楽団副首席)、クラリネットの鈴木豊人(宮川彬良&アンサンブル・ベガ奏者)。鈴木さんは2007年夏の「朝日ファミリー」創刊30周年記念イベントで、クラリネット・アンサンブルのミニコンサートでお世話になった笑顔のステキな方だ。

 スペシャル・プレイヤーは、PACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)とホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、トランペットの高橋敦(東京都交響楽団奏者首席)、トロンボーンのロイド・タカモト(大阪フィルハーモニー交響楽団首席)。先述した3人を含めPACのOB・OGは、ヴァイオリン4人、ヴィオラ2人が参加した。

 この日は平日とあって終演後に仕事に戻り、否応なく現実に引き戻されたが、ずっとかみしめていたいような深い満足が味わえた演奏会だった。(大田季子)




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