【PACファンレポート㉟ 第118回定期演奏会】
10月19日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第118回定期演奏会は、3年ぶり2度目のロシア人指揮者アレクサンドル・ヴェデルニコフが、ロシアの名曲2曲を取り上げた。
前回も母国ゆかりの作曲家たちの演奏を聴かせたマエストロはプログラムのインタビューで「ロシア音楽を理解する上で大切なのは、広大な大地のフィーリングを掴(つか)むこと」と語っている。その思いを汲み取ったPACは、フレッシュな感覚を宿しつつ、スケールの大きな曲の波に乗った演奏で、指揮者の要求に応え切った。
初登場のソリスト、クララ=ジュミ・カンは韓国系ドイツ人の美貌のヴァイオリニスト。秋にふさわしいシックなロングドレスは枯葉をイメージしていたのだろうか。クールな表情で、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」を情感たっぷりに奏でて魅了した。
深く沈潜する憂愁のメロディー、明るく軽快な躍動部……時間の経過とともに両極に振れていく大胆な曲の流れをスムーズにリード。舞台中央のソリスト席にすっくと立つ姿は聴衆の視線を集め、それを跳ね返し、神々しさを感じさせるほど。見事なクール・ビューティーぶりだった。
約35分の熱演の後で、ソリストのアンコール曲はJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番ハ長調」より“ラルゴ”。脳裏にヴェルレーヌの詩「秋の日のヴィオロンのため息の……」がふっと浮かんだ。
オーケストラの曲は20世紀を代表する作曲家セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)の交響曲第5番。1945年1月にモスクワで初演された、彼の作品の中では「わかりやすい」スタイルの作風という。確かにその通り。楽章ごとの曲調のメリハリがしっかりしていて、それぞれの楽器の活躍の場も用意されていて、聴いていてとても気持ちがいい。多彩なパーカッションと管弦がリズミカルに、ダイナミックに動き回るのも、ロシアの大地に生息する様々な生き物たちが生命を謳歌しているようなイメージで楽しい。
今シーズンのPACの定期演奏会はまだ2回目だが、聴いていると、とてもバランスの取れたオーケストラという印象が強い。メンバー同士が互いの音を聞き合う中で、絶妙な調和を生んでいるのだろう。彼らの精進の果てに、一体どんな景色が待っているのかを考えると、ものすごく楽しみになってきた。
オーケストラのアンコール曲は、プロコフィエフの「3つのオレンジへの恋」より行進曲。満足感に顔を上気させた私たちを快く送り出してくれた。
コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの戸上眞里(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロの三宅進(仙台フィルハーモニー管弦楽団ソロ首席)、コントラバスの吉田秀(NHK交響楽団首席)、トロンボーンの阿部竜之介(大阪交響楽団首席)、ティンパニの森洋太(九州交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーは、オーボエの古部賢一(新日本フィルハーモニー交響楽団首席)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、パーカッションの坂上弘志(元大阪フィルハーモニー交響楽団首席)。PACのOB・OGは、ヴァイオリンで7人、ヴィオラで2人、チェロとコントラバスでそれぞれ1人が参加した。(大田季子)