【PACファンレポート㊶特別演奏会 ベートーヴェン生誕250年 佐渡裕音楽の贈り物 PAC with ベートーヴェン!第1回】
9月に入っても続いた酷暑がようやく一段落したと思われた9月12日土曜、心待ちにしていた特別演奏会に出かけた。開演時間はいつもの定期演奏会より1時間早く14時、客席は隣の席を空けてソーシャル・ディスタンスを確保してある。
冒頭、マイクを手に登場した佐渡裕芸術監督は、定期演奏会が中止となった3月からの活動について振り返り「アカデミーの機能を持つPACは最長3年でメンバーを入れ替えますが、コロナ禍で十分な研鑽(けんさん)を積むことができなかったため、今シーズンは新メンバーを入れず、他のオーケストラに行くメンバーは一部いますが、そのままのメンバーでいくことにしました。今日はベートーヴェン生誕250年を記念して、ベートーヴェンが最初に作曲した交響曲第1番と、交響曲第3番『英雄』を演奏します。第1番はまだベートーヴェンらしさが影を潜めていて、それまでのハイドン風の交響曲を意識した構造になっています。それが、第3番になるといかにもベートーヴェンらしい曲に変わってくる。彼の曲は、どの楽器にも見せ場を作っているのが大きな特徴です。ベートーヴェンの曲は何度も演奏していますが、自分自身や世の中の変化とともに受け止め方が変わるので、今の時代にはどう響くでしょうか」と、約10分にわたって語りかけた。
PACメンバーが舞台に登場。演奏会が始まる舞台に自分がいることのうれしさを、誰もが体中から発散しているようだ。佐渡芸術監督がメンバーを紹介し、ソロや合奏を動画配信している「Meet HPAC リサイタルホールから」(9/16現在でvol.13まで配信中)を視聴しているので、演奏会を聴きに行くだけではわからなかったメンバーの肉声やキャラクターが思い出されて、それぞれがより身近に感じられる。「あ、フルートのフランチェスカ、イタリアから帰って来られたんだ。よかった!」。私のPAC贔屓はますます高じていきそうだ。
一度退出した佐渡芸術監督は、オーケストラの音合わせが終わってタクトを手に再び登場。聴衆に向かって一礼して顔を上げた時、感激屋のマエストロはすでに目を潤ませていた(私ももらい泣き)。
コンマスを入れて総勢26人、生き生きと躍動するヴァイオリンの細かな動きにけん引されて進む交響曲第1番は、全体として緻密で繊細な印象。清明な和音で共鳴し合う楽器それぞれの個性的な音が、確かによく聞こえる。輪郭のはっきりした音が鳴りながら、全体として均整のとれた美しいイメージが描かれていくのは交響曲第3番「英雄」も同じだ。ホルンの響きが耳に心地よい。
この日はアンコール演奏はなし。終演後に何度も呼び戻された佐渡芸術監督は感激の面持ちで、再び涙ぐんでいた。
ゲスト・コンサートマスターは近藤薫(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの横山俊朗(NHK交響楽団第2ヴァイオリン フォアシュピーラー)、チェロの富岡廉太郎(読売日本交響楽団首席)、コントラバスの加藤正幸(元東京フィルハーモニー交響楽団副主席)、バスーンの小林佑太朗(大阪フィルハーモニー交響楽団首席)、トランペットの神代修(大阪教育大学教授)=13日公演はPACのOBでもある池田悠人(関西フィルハーモニー管弦楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはPACのミュージック・アドバイザーも務める水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)。PACのOB・OGはヴァイオリン7人、ヴィオラとコントラバスが各2人参加した。(大田季子)