【PACファンレポート㊺兵庫芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会 下野竜也「展覧会の絵」】昨年6月「オーケストラ公演の再開に向けて~ディスカッションとデモ演奏~」(現在も楽団公式YouTubeで視聴可能)で佐渡裕芸術監督とともに登場し、コロナ禍で演奏機会を失った若い演奏家たちへの思いを熱く語った下野竜也さん。彼が兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで、PACメンバーを率いて「展覧会の絵」を振ると聞いて「これは何としても駆け付けなければ!」そう思ったのは私だけではなかったようだ。
1月16日、満員の聴衆の前に登場した下野マエストロは、右手にミッキーマウスがしているような大きな手袋をはめて、コンサートマスターの豊嶋泰嗣と固く握手を交わし、さっそうと指揮台に上った。
最初の曲は「近代ロシア音楽の父」といわれるミハイル・イヴァノヴィッチ・グリンカ(1804-57)の歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲。演奏を待ち望んでいた聴衆の気持ちを、小気味よいテンポでリードし、さらに高めていく。内にため込んだ音楽への情熱を、キビキビとした動きでダイナミックに解き放つ下野の指揮に、PACメンバーも懸命に応えている。全身から発散されるその喜びを目にして、「下野さん、本当に良かった!」と思わずにはいられなかった。
ソリストは14歳で東京音楽コンクール優勝後、国内外の主要オーケストラと共演して注目を集める愛知県出身の北村朋幹(ともき)がPAC初登場。約34分に及ぶラフマニノフ「ピアノ協奏曲 第2番」を華麗に聴かせた後、疲れも見せずにバルトーク「3つのチーク地方の民謡」をアンコールで軽やかに披露した。休憩時間中のロビーでは「若いのに素晴らしい演奏ね」という声があちこちで聞かれた。
そして待望のムソルグスキー作曲(ラヴェル編曲)の組曲「展覧会の絵」。ここでも下野はパワフルな指揮でオーケストラをリード。トランペットの金丸響子の晴れやかな音色、クラリネットの山下真理奈の流麗な調べ……耳に馴染んだ人気の曲で、大編成オーケストラの楽器の様々な音色が色彩感豊かに咲き誇り、クライマックスのキエフの大門では、大音量の音圧を全身で受け止めた。
休憩中から「下野さんのアンコールは今年も大河ドラマの曲かしら?」というささやきが客席から聞こえていたが、今回のアンコール曲はエルガー「エニグマ」変奏曲 op.36 より「IX. ニムロッド」。ホールに満ちる祈りに満ちた静かな調べを聞きながら「そうか、明日は1.17。私たちが忘れてはならない阪神淡路大震災の日。今、再び緊急事態宣言が出された状況下で懸命に命を救おうとされている医療従事者の皆さんや、自粛を求められて縮こまった生活をせざるを得ない私たちを思っての選曲なんだろうな」と合点がいった。
ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの戸上眞理(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロの植木昭雄(フリーランス、第1回齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞)、コントラバスの加藤正幸(元東京フィルハーモニー交響楽団副首席)。スペシャル・プレイヤーはホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、トランペットの佐藤友紀(東京交響楽団首席)ティンパニの岡田全弘(読売日本交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン6人、ヴィオラ、コントラバス、トランペットが各1人参加した。(大田季子)
【お知らせ】次回のPACの特別演奏会は2月20日(土)15時からの「ザ・ブラームス」(指揮:カーチュン・ウォン、ヴァイオリン:神尾真由子)だが、すでに完売。
3月20日(土)15時からの準・メルクル「幻想交響曲」(チェロ:カミーユ・トマ =初登場)は2月14日(日)発売開始。詳しくは兵庫県立芸術文化センターの公式ホームページで。http://www1.gcenter-hyogo.jp/