【PACファンレポート㊽兵庫芸術文化センター管弦楽団 第126回定期演奏会】9月18日の土曜、1年半ぶりに始まったPAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)の定期演奏会にいそいそと出掛けた。開演前、佐渡裕芸術監督は恒例のトークで、定期演奏会を再開できる喜びを自身のエピソードを交えて語った。
「僕は小学生のころから京都市交響楽団の定期会員でした。ませガキですね(笑)。決して音響がいいとは言えなかった京都会館に通って、知らない曲や国内外の演奏家にたくさん出会い、音楽の喜びを知っていきました。
昨シーズンはPACの定期演奏会はすべて中止。今日は1年半ぶりに2021-22シーズンの定期演奏会を、世界でオーディションした新メンバー15人が加わって始めることができます。とはいえ、いまだ以前のように自由に行き来できる状況ではなく、海外から演奏家を迎えることは難しい。僕自身も海外から帰った後は2週間の自宅待機が続いています。
今日の最初の曲はフルートの名手、工藤重典さんを迎えてイベールの協奏曲。横笛の楽器はフルートだけでなく世界中にあり、親しまれています。昔から笛を吹くとヘビが出る、なんて言ったりもしますよね。僕も最初はフルートをやっていましたが、この曲の譜面を見た時に、なんて高い技術を要求する曲だろうと驚きました。
オーケストラはブルックナーの交響曲第7番をお届けします。この曲は美しいですが長いです。作曲家は何を考えてこのような曲を作ったのか。チャイコフスキーだったら、ティンパニが華麗にダンダンダーンと躍り出てくるような見せ場がありますが、この曲はずっと同じリズムで地味に叩き続けています。もっと大変なのはパーカッションの2人、シンバルとトライアングルはたった1回か音を鳴らさない。出番が来るまでの45分近く、彼らは寝ることなく待っているんです」と笑わせて、会場を温めてから演奏会をスタートした。
ジャック・イベール(1890-1962)は近代フランスの作曲家。佐渡さんが「高い技術を要求する」と言った協奏曲の第1楽章と第3楽章は、華やかに音が飛び跳ね、転げ回り、聴く者には楽しい印象を与えるが、演奏する工藤重典の指は息もつかせぬ早業で、見事に吹きこなす。第2楽章は、いかにもフランス音楽らしい優美な調べで、柔らかな草の上を裸足で歩いていくような心地よさを感じた。
素晴らしい演奏の後で、ソリストがこの日披露したアンコール曲は、ドビュッシー「シランクス」。佐渡さんも指揮台に腰かけて(体育座りのように膝を抱えて)大ホールに満ちるフルートの音色に聴き入っていた。
教会のオルガン奏者としても名高いオーストリアの作曲家、アントン・ブルックナー(1824-1896)の交響曲は、今年、没後20年となる朝比奈隆がこよなく愛したことで知られる。佐渡さんは近年、ブルックナーに熱心に取り組んでおり今回、4作目の交響曲として第7番に初めて挑んだ。プログラムに収録されているインタビューで「ブルックナーの交響曲は世界観が大きいところが魅力。この曲は、メロディーというよりも、響きの中に身を置くことを味わう交響曲だと思う」と語っている。
その言葉の通り、それぞれの楽器が発する音が強弱と緩急をつけて立ち上がり、膨らみ、限界まで大きくなったかと思うと、静かに引いていく。その繰り返しの中に心地よい波動が生まれ、その響きに身を任せていると、どこか遠くの見知らぬ場所へ運ばれていくような気持ちになる。何度も聞きたくなる味わい深い曲が、名曲たるゆえんなんだなと思った。
コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの双紙正哉(東京都交響楽団第2ヴァイオリン首席)、PACのOGでもあるヴィオラの石橋直子(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)、コントラバスの加藤正幸(元東京フィルハーモニー交響楽団副首席)、ティンパニのミヒャエル・ヴラダー(ウィーン交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはオーボエの古部賢一(東京音楽大学教授、元新日本フィルハーモニー交響楽団首席)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、PACのOBでもあるトランペットのハラルド・ナエス(京都市交響楽団首席)。ほかにPACのOB・OGはヴァイオリン6人、チェロとコントラバスが各2人、ヴィオラとワーグナー・テューバが1人参加した。(大田季子)
【第127回定期演奏会の出演者と曲目変更のお知らせ】
10月22日(金)~24日(日)開催予定の次回定期演奏会(指揮:川瀬賢太郎)で、出演を予定していたソリスト(ホルン)のシュテファン・ドールが、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大にかかる渡航規制で来日できなくなった。そのため、 ソリストを清水和音氏(ピアノ)に変更し、曲目を一部変更して開催すると発表された。弱冠20歳で、パリのロン=ティボー国際コンクール・ピアノ部門優勝、あわせてリサイタル賞を受賞して以来、国内外で活躍し共演者から厚い信頼を得る日本を代表するピアニスト、清水の演奏曲はラフマニノフ「ピアノ協奏曲 第2番」。オーケストラは当初の予定通り、ラフマニノフ「交響曲 第2番」を演奏する。