清水和音のピアノと川瀬賢太郎&PACの熱演でラフマニノフの2番に浸る~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第127回定期演奏会~

【PACファンレポート㊾兵庫芸術文化センター管弦楽団 第127回定期演奏会】ショパンコンクールで反田恭平が日本人として50年ぶりに2位に入賞し、小林愛美は4位――うれしいニュースに湧いた週末、「素晴らしい2人の演奏に、PAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)の定期演奏会で触れることができていたんだな。聴き続けることは将来大きく花開く才能に、いち早く出会えることでもあるんだな」と感慨を抱きながらホールに向かった。反田は2017年11月の第101回でPACと、小林は2015年9月の第81回で佐渡裕芸術監督率いるPACと共演している。

 

10月23日土曜は、指揮の川瀬賢太郎が演奏前のトークで披露した話に引き込まれた。

「僕は今回、PACとは初共演なのですが、ふだん僕が指揮している名古屋と神奈川のオーケストラにPACの卒団メンバーが多いので、とても初共演とは思えない親近感を感じています。

そして、このホール。ここで演奏するのは実は2度目です。僕は2006年に東京国際音楽コンクールで1位なしの2位に入賞しました。コンクールの入賞者は、このホールで演奏会を開けることになっていて、大阪センチュリー交響楽団(現・日本センチュリー交響楽団)をここで指揮したのが僕のプロの指揮者としてのデビューでした。

ソリストの清水和音さんはこれまで何度も共演をオファーしていたのに、スケジュールが合わずに実現しませんでした。今回、オリジナルプログラムでホルン奏者のシュテファン・ドールさんの来日がかなわなくなったおかげで、思いがけず清水さんとの初共演が実現することになりました」

この日の演奏会のプログラム

親和性と共感とあこがれを携えて始まった演奏会は、「きっといいものになる」との予感を裏切らなかった。清水和音が披露したラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」は、日本で人気が高い。おなじみの哀愁を帯びたドラマチックなメロディーをピアノから繰り出す清水の両手の甲は、鍵盤の上をほぼ平行移動している。何の苦労もなく穏やかにさえ見えるその動きから生まれる音の豊かな表情と多彩さ! 強い音も弱い音も、確かな輪郭をもって空間に刻まれ、余韻を残して消えていく。

清水の演奏姿を見ていると、幼い私にピアノを教えてくれた先生の言葉を思い出した。「手のひらのくぼみに生卵があると思ってピアノを弾いてね」。ソナチネの最初でピアノの練習をやめてしまった私は、全く良い生徒ではなかったのだけれど、たゆまない修練の繰り返しの果てに、素晴らしい演奏家たちの今日の演奏があることは知っている。その膨大な時間の体積が凝縮されるからこそ、その一瞬がかけがえのないものとなる。

ソリストの演奏では、川瀬は指揮棒を持たず、両手を大きく動かして体全体を使ってPACを導いた。何度も拍手に呼び戻された清水のアンコール曲はラフマニノフ(アール・ワイルド編曲)「ヴォカリーズ」。川瀬もホルン奏者の横の椅子に座って聞きほれていた。

 

オーケストラの曲は、ラフマニノフ「交響曲第2番」。冒頭のトークで川瀬が「演奏時間が60分もあり、長い」と紹介すると、聴衆から少し笑いが漏れたが「長いというよりも、スケールが大きい。ヨーロッパに行く時に飛行機がロシアの上空を通りますが、一度眠って目覚めても、まだロシアの上空を飛んでいる。それぐらい広い国だからこそのスケール感が反映された曲なんですね」と、その壮大さを強調した。川瀬は1984年東京生まれで、今年37歳。35歳以下の演奏家たちが集まるPACとはほぼ同世代か兄貴分になる。

指揮棒を手に登場した川瀬は、若々しいフレッシュな気持ちでストレートに音楽に向かうPACのエネルギーを巧みにリード。曲が進むごとに指揮者も奏者も“乗っている”感じがビシバシと伝わってきた。この日私は特にクラリネットのフルヴィオ・カプラ、ホルンのルーク・ベイカーが放つ濃密な気に目を奪われっぱなしだった。

 

コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの原雅道(九州交響楽団アソシエートコンサートマスター)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者)、チェロの富岡廉太郎(読売日本交響楽団首席)、コントラバスの石川滋(読売日本交響楽団奏者)、オーボエの古部賢一(東京音楽大学准教授、新日本フィルハーモニー交響楽団客員首席)。スペシャル・プレイヤーはホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、パーカッションの近藤高顯(元新日本フィルハーモニー交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン5人、チェロとオーボエで各1人が参加した。(大田季子)

【第128回定期演奏会の出演者変更のお知らせ】

11月26日(金)~28日(日)開催予定の次回定期演奏会(指揮:ユベール・スダーン)で、出演を予定していたソリスト(ヴァイオリン)のヴィヴィアン・ハーグナーが新型コロナウイルスの感染拡大にかかる渡航規制で来日できなくなったため、ソリストが竹澤恭子に変更された。演奏曲の変更はなく、ニューヨーク・フィルやコンセルトヘボウ管など欧米の主要オーケストラや、ズービン・メータや小澤征爾など著名な指揮者との共演を重ねる竹澤が、ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」をストラディヴァリウスで奏でる。

 

 




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