【PACファンレポート㊿兵庫芸術文化センター管弦楽団 第128回定期演奏会】
11月27日土曜は昨年11月の特別演奏会以来1年ぶりに、指揮のユベール・スダーンが登場。PACとは何度も共演を重ね、佐渡裕芸術監督とも互いに信頼し合っているオランダ生まれのマエストロが、ベートーヴェン、ハイドン、シューベルトの名曲を届けてくれた。
最初の曲はベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストは夜の女王を思わせるロングドレスで風格を漂わせてステージに現れた竹澤恭子。マズア、メータ、デュトワ、小澤征爾といった名指揮者たちと世界のひのき舞台で数多く共演しているヴァイオリニストだ。プログラムでスダーンは「竹澤恭子さんのような偉大なソリストとご一緒できることは、私にとって大きなプレゼントのような経験」と期待を込めて語っていた。
PACが演奏する導入部を舞台中央で聴き入っていた竹澤が最初の音を奏で始めた時、聴衆が集中するのがわかった。1724年製アントニオ・ストラディヴァリウスから紡ぎ出される音は、オーケストラを従えて変幻自在。表情豊かにホールの大空間を満たしていく。音の乱舞を苦もなく演奏できるのは精進を重ねた賜物。そこに生まれるのが、ベテランのゆとりだろう。立ち姿の美しさにも魅了された。
ソリストのアンコール曲はJ. S. バッハ「無伴奏ソナタ第3番より ラルゴ」だった。
休憩をはさんでチェンバロを伴った小編成(オーボエ2、バスーン、ホルン2、弦楽5部)のPACがハイドン「交響曲第1番」を披露。約10分の短い曲だが、趣の異なる3章からなる。宮廷や貴族のサロンで好んで演奏されたであろうと思わせる曲だった。
オーケストラのメインはシューベルトの交響曲第4番「悲劇的」。
昨年、日本人好みの「未完成」をPACと演奏したマエストロは、12人の新メンバーが参加しているPACを巧みにリード。31歳の若さで世を去った早熟な天才作曲家のリリカルかつドラマチックな曲は、いつ聞いても私に多感な青春時代を思い出させるのは何故だろう。胸を熱くした日、ほろ苦い後悔、いろいろな思いが交錯する。
この曲の間、マエストロの正面で木管を奏でる3人の女性演奏家の頑張りが目を引いた。フルートの三原萌、オーボエの上品綾香、クラリネットの山下真理奈。曲が終わった後、マエストロも彼女たちを真っ先に称えていた。
スダーンが英語で聴衆に話しかけて始まったオーケストラのアンコール曲はワーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」より 第5曲 “夢”。昨年9月からPACのコンサートマスターに就任した田野倉雅秋が立ち上がってソリストを務めた。
ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの大森潤子(元札幌交響楽団首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者)。スペシャル・プレイヤーはフルートの富久田治彦(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン3人、チェロとコントラバスが各1人参加した。(大田季子)