【PACファンレポート62兵庫芸術文化センター管弦楽団 第140回定期演奏会】3月25日土曜の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会。終演後、久しぶりの「ブラボー!」がKOBELCO大ホールに響いた。この日はドイツ人を父に、日本人を母に、ミュンヘンで生まれた指揮者、準・メルクルが初登場。プログラムは1896年(日本の暦では明治29年)初演という共通点を持つ3曲。面白い着眼点の選曲だ。2021年シーズンから台湾国家交響楽団の音楽監督を務めている指揮者は燕尾服に身を包み、終始スマートな指揮でPACをリードした。
最初の曲はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)の交響詩「水の精」。日本語で聞くと優美な女性では?とイメージしてしまうが、この水の精は激烈だ。題材となったチェコの国民詩人カレル・ヤロミール・エルベンの詩は、人間の少女を妻とした水の精(王)が、里帰りした妻が戻ってこないことに激怒し、わが子を殺してしまう内容だそうだ。
リズミカルな冒頭から、ゆっくりと穏やかな調べに移り、再びリズミカルに楽器が鳴動し始める。続くシーンはどこか不穏な響きを宿し、繰り返される主題が哀調を帯び、悲劇を予感させ始める。緊迫したムードで迎えた大音量のクライマックスの後は、挽歌のような響きで静かに幕。約20分のドラマチックな物語だった。
まるで振袖と見まがうようなたっぷり生地を使った優美なロングドレスで登場したソリストは、パリ生まれのカミーユ・トマ(衣装をご覧になりたい方は、PACのツイッターをチェックしてみて。どの日の衣装もとてもオシャレ。さすがパリジェンヌ!)。
4分余りのオーケストラの誘いの後でおもむろに始まったチェロの独奏。哀調を帯びた調べが心に染み入ってくる。フルートをはじめとする木管セクションとのゆったりとした掛け合いが夢見るように美しい。弦が一斉に鳴り出すと曲調が微妙に変化する。アメリカ滞在中のドヴォルザークが望郷の思いに駆られて作った最後の作品と言われるこの曲は、全編、郷愁の思いを音に載せている。故郷を恋う、作曲家のほとばしるような情念を、トマとPACメンバーは見事に表現した。
アンコールで何度も呼び戻されたソリストは「アリガトウゴザイマス」と日本語で聴衆にあいさつし、ウクライナの作曲家スコリク(ディモフ編)「 メロディ(独奏チェロと弦楽オーケストラのための)」をアンコール演奏。再び惜しみない拍手が送られた。
休憩後は、映画「2001年宇宙の旅」で使われて、クラシックになじみのない人でも誰もが知る曲となったリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。初演時、作曲家は32歳、PACメンバーと同世代の若さだったことになる。
そういう曲の時は、先入観かもしれないが、PACメンバーの演奏と曲自体が「波長が合う」ように思えるのは私だけだろうか? この日の演奏も一期一会の生の演奏会の楽しみを十分に味わわせてくれた。大いに満足した聴衆たちが発する「ブラボー!」と鳴りやまぬ拍手、いつまでも余韻に浸っていたくなった。
ゲスト・コンサートマスターはアントン・バラコフスキー(バイエルン放送交響楽団第一コンサートマスター)。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの戸上眞里(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラのベネディクト・ハメス(バイエルン放送交響楽団首席)、チェロの西谷牧人(元東京交響楽団首席)はPACのOB、コントラバスのハインリッヒ・ブラウン(元バイエルン放送交響楽団ソロ・コントラバス)、トランペットのハラルド・ナエス(京都市交響楽団首席)もPACのOB。スペシャル・プレイヤーはホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、ティンパニの岡田全弘(読売日本交響楽団首席)。
PACのOB・OGはゲスト・トップ・プレイヤーの2人を含め、ヴァイオリン8人、チェロ4人、ヴィオラとコントラバス、トランペットが各1人参加した。(大田季子)
【お知らせ】2月の第139回定期演奏会でPACメンバーらが呼び掛けて集まった義援金882,214円は、「令和5年トルコ地震兵庫県義援金募集委員会」に全額寄付された。3月24日にPACメンバーから兵庫県防災監に目録を贈呈し、感謝状が贈られた。「皆様の温かいご協力に、改めて感謝申し上げます」