【PACファンレポート⑥ 第92回定期演奏会】
高松公園が秋色に染まり、イルミネーション点灯式があった11月19日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第92回定期演奏会は、美しいメロディーが印象的だった。
大ホールに入ってまず目についたのは「オーケストラの配置がいつもと違う」ということ。舞台に向かって左に第1ヴァイオリン、右に第2ヴァイオリンを置く「ヴァイオリン両翼配置」を私がPACの演奏会で初めて目にしたのは、2013年5月、金聖響指揮の第61回だった。両翼のヴァイオリンの弓の動きと指揮者のタクトが波のように揺れて鮮烈な印象を残したのを覚えている。
この日は第1ヴァイオリンの後ろにはコントラバス、正面のひな壇の最上段には木管楽器が並び、右後ろにトロンボーンとトランペット、その手前にティンパニがある。
指揮者は旧東独第2の都市・ライプツィヒに生まれたクラウス・ペーター・フロール。旧東独の主要なオーケストラを指揮してキャリアを積み、35歳の時にベルリン・フィルを初めて指揮したマエストロが、生まれた地にゆかりのプログラムを携えて初登場した。
ゲスト・コンサートマスターは、東京フィルのコンサートマスター三浦章宏。チェロのゲスト・トップ・プレイヤーには、地元・神戸女学院大学でも教える林裕の顔も見える。
まずはライプツィヒで活躍し、そこで没したカール・ライネッケ(1824-1910)の「フルート協奏曲」。ソリストは、3年前の「神戸国際フルートコンクール」で第1位に輝いたパリ生まれの新星、マチルド・カルデリーニだ。上背のある彼女が光沢のある濃紺のロングドレスを優雅に着こなし、フルートを手に登場すると、魔法の杖を携えた妖精が降り立ったようだった。
「初めて聞いた瞬間、私の魂に触れた」と自身がほれ込む作曲家の美しい協奏曲を、まさに“歌うように”のびやかに、情感たっぷりに演奏した。
ソリストのアンコール曲はドビュッシー「シランクス」。無伴奏フルートの哀調を帯びた調べは、どこか日本の里山の懐かしい晩秋の景色を、私に思い出させた。
交響曲はフランツ・シューベルト(1797-1828)の交響曲第8(9)番「ザ・グレイト」。有名な「未完成」が長く交響曲第8番と称されてきたために、奇妙な番号がついたこの交響曲が完成したのは、彼が31歳で亡くなるわずか7カ月前。初演の地はライプツィヒで、メンデルスゾーンが指揮したという。
早世の作曲家の多感なイマジネーションが生み出した起伏に富んだ美しいメロディーが、分厚い音の構成で、リズミカルに揺れながら高まり、静まり、ダイナミックに、繊細に、いつ果てるともなく繰り広げられる。
その様子は、大作曲家シューマンが「天国的に長い」と評した名言そのもの。曲が揺れ動く、その振幅の幅に、自らの音楽を追求する作曲家の、みずみずしく若い感性が宿っている。演奏するPACメンバーたちがとても楽しそうに見えたのは、作曲家シューベルトのその若い感性に共鳴していたからだろう。
「若さっていいなあ…」と、ひとりごちながら家路についた。(大田季子)