授業も、テストも、クラスもない。子どもたちはその日自分がやりたいことを自由に決めて、どんどんやっていく。スタッフの大人たちは“先生”ではなく、子どもの活動を見守り、時に相談に乗る仲間だ……。夫の郷里・鳥取県に帰省した時、「森のようちえん まるたんぼう」に子どもを通わせていた人から「新田サドベリースクール」(智頭町)の話を聞いた浅田さかえ監督は「そんな学校、成立するの⁉」と驚くと同時に「直観的に面白い!と思った」と制作の動機を語る。
このスクールの1年に密着したドキュメンタリー映画「屋根の上に吹く風は」が、10月22日(金)から京都シネマ(阪急烏丸・地下鉄四条)で、翌23日(土)から第七藝術劇場(阪急十三)で公開される。これまでテレビ番組でドキュメンタリー作品を発表してきた浅田監督の初めての劇場公開映画作品だ。プロモートで来阪した浅田監督に話を聞いた。
2018年2月、最初に新田サドベリースクールを訪れた時から「子どもたちがOKしてくれたので」カメラを回し始め、19年6月まで300時間以上に及ぶ撮影を108分にまとめた。四季の自然が豊かに描かれる中で、生き生きとした子どもたちの活動の様子が映される。
屋根の上でおにぎりを食べる子どもたち(上れなかった子が初めて上った時には拍手も起こる)、山梨から一人で電車を乗り継いでスクールにやって来た子、退屈だから……と喫茶店を始めたいと仲間を募って準備に奔走する子、田んぼでコメ作りにチャレンジする子どもたち、ゲームに夢中な子もいれば、漢字の書き取りに励む子もいる。
何か問題が起こったら、全員で話し合って解決策を見つけようとする。子どもたちの率直な意見には、時に大人がハッとさせられる。「昭和の教育を受けた私のように、一度決めたことは最後までやり通すべきと頑なに考えるのでなく、途中でやりたくないと思った子どもたちは、どうすればやれるようになるか、ルールを変えることを考えていました。その発想は私にはなかった。大人が鍛えられる場でもあると思いました」と浅田監督は言う。
「小さなけんかの火種はもちろんあります。だけど見ていると、あ、今、地雷を踏んだかなと思っても、おおごとに発展していかない。子どもたちにゆとりがあったり、自分も相手も大事にする姿勢が身についているからかもしれません」
「最初はテレビ番組での発表を考えていたのですが、近年テレビは制約も多く、SNSでの誹謗中傷も深刻。サドベリーのような価値観を伝えるには、表現の自由度がより高い映画が合っているのではと考えるようになりました。その分、監督の責任は重いのですけれど」
アメリカ・サドベリーから始まったデモクラティックスクールをモデルにした「サドベリースクール」は現在、世界に約60校。日本には「新田サドベリースクール」が加盟する「デモクラティックスクールネットワーク」に加盟する9校のほか、部分的に取り入れているフリースクールなどがあるという。
「賛否両論はもちろんあると思うのですが、まずはこんな学校もあるということを、たくさんの人に知ってほしい。コロナ禍の昨年度、小中学校で不登校の子どもが19万人を超えて過去最高になったと先日発表されました。公教育の学校へ通うことだけが学びではない。様々な選択肢があると知れば、追い詰められる子どもたちが減るのではないでしょうか」
来年度からの新課程で、学校現場でアクティブラーニングの導入が本格的に始まる。筆者には「新田サドベリースクール」の活動は、アクティブラーニングの一つの実践のように感じられた。本当にそうなのか? 関心のある人はあなた自身の目で確かめてみてほしい。
第七藝術劇場では下記の日程で舞台挨拶が予定されている。
〇10月23日(土)14:15の回上映後、浅田さかえ監督、映画に登場の「新田サドベリースクール」元スタッフと出身者が登壇。
〇10月25日(月)11:50の会上映後、浅田さかえ監督が登壇。
「屋根の上に吹く風は」公式webサイト https://www.yane-ue.com/
©SAKAE ASADA