大阪・キタを舞台にしたスケールの大きな群像劇「Come&Goカム・アンド・ゴー」12/3公開

母語は広東語だが英語も日本語も堪能。「登場してくれたアジアの俳優たちの国での上映は難しい。それらの国にはアート系のミニシアターがなく、全部シネコンだから。もう一つ大きな問題は、尺が長いこと。可能性があるとしたら配信ということになるが、自分としては劇場の大きなスクリーンで見てほしいので配信は考えていない」と話すリム・カーワイ監督=11月11日、大阪市内で

【リム・カーワイ監督インタビュー】

近年、大阪をベースに映画をつくっているマレーシア生まれの中国人、リム・カーワイ監督の「Come&Goカム・アンド・ゴー」(158分)が12月3日(金)からテアトル梅田、4日(土)からシネ・ヌーヴォ、10日(金)から京都シネマで公開される。去年の「東京国際映画祭TOKYOプレミア2020」で上映して大評判を呼んだ作品で、「新世界の夜明け」(2012)、「Fly Me To Minami恋するミナミ」(2013)に次ぐ大阪3部作の最終章。今回の舞台はキタ。リム・カーワイ監督に話を聞いた。

 

――長い映画でしたが、多彩な登場人物それぞれが気になって、いつまでも見ていたくなりました。長く住んでいる私が言うのも変ですが、大阪ってきれいな街だったんですね

大阪はきれいな街ですよ。撮影は2019年の3月下旬から4月上旬まで。桜が満開になる季節を狙って撮りました。空から見た大阪はドローンで。淀川も川がきれいですよ。

大阪大学で電気工学を学ぶ学生だった時は大阪の街の魅力には全然気づいていませんでした。そのころ住んだのは宝塚、石橋、梅田(扇町の方)。卒業してエンジニアとして東京で働いた時に年間300本ぐらい映画を見て、その魅力に目覚め、仕事を辞めて北京に留学して映画を学びました。その後は中国、北京や香港で映画を撮り、香港で2作目を撮り終わった時、大阪市が60万円の助成金を出して企画を募集していました。

それに「新世界の夜明け」の企画を出して通ったから12年ぶりに大阪に戻ってきました。撮影・編集で2、3カ月滞在して初めて「大阪っていいな」と思ったんです。その後「Fly Me To Minami恋するミナミ」を作って、大阪をベースにして映画を作ろうと決めて、その時に大阪3部作の構想が生まれました。

――アジア9カ国・地域から多彩な人たちが登場し、一人ひとりが人生を持ち、ドラマを持っています。コロナ前の大阪の活気を思い出しました。

アルバイトをしながら日本語学校に通うミャンマーからの留学生ミミ(ナン・トレイシー)

自分も外国人なので、大阪にそういう人たちがいると描きたかった。たくさんの国の人々が大阪を行ったり来たりする群像劇を、大きなスケールで見せたいと思っていました。様々な国籍、様々な人種を登場させようと、観察も含めて数年間いろいろリサーチをして、最終的にこういうふうにまとめました。

その間、大阪の変化も激しくなっていきました。急にインバウンドの観光客が増え、爆買いを含めて観光ビジネスが盛んになり、労働力不足を解消するために技能実習生の受け入れが増えていった。そういう日本社会の変化にも対応して、入管の問題、難民の問題も取り入れて物語を作りました。

登場人物が遭遇するのは、それぞれ独立した事件ですが、つないで並列で見せていくと、一つの大きな絵巻ができ上がって、いろいろなことが見えてくるんじゃないかと思います。

技能実習生ナムを演じたリエン・ビン・ファットはベトナム映画界を代表するスター

――まるで曼陀羅のようですね。キャスティングは大変だったのでは?

最初からこれぐらいの登場人物で映画を作ろうという考えがあって、キャラクターをもとにキャスティングをしていきました。オーディションで選んだのは、ナン・トレイシー、尚玄、望月オーソンの3人。後は全員、イメージにぴったりの人を求めて俳優事務所、海外の友人知人を通じて探していきました。

準備に3週間、撮影に3週間。全部で約2カ月で撮り終わりました。これだけのキャストを1カ月拘束することはあり得ないので、調整は難しかったです。雀々さんは2日、そのほかの人も3日程度のスケジュールで、脚本にも手を入れながらの撮影でした。

台北から定期的に大阪に来るAVオタク、シャオカンを演じるのは台湾映画の巨匠ツァイ・ミンリャン監督の全作品で主役を務めるリー・カンション(李康生)
【主なキャスト】台湾のAVオタク:シャオカン/リー・カンション(台湾)、ベトナムからの技能実習生ナム/リエン・ビン・ファット(ベトナム)、徳島から来たマユミ/兎丸愛美(日本)、ミャンマーからの留学生ミミ/ナン・トレイシー(ミャンマー)、刑事 富岡/千原せいじ(日本)、中崎町で一人暮らしの退職者:飯田/桂雀々(日本)、富岡の妻・佳子/渡辺真起子(日本)、中崎町でAV制作会社を経営する竜司/尚玄(日本・沖縄出身)、クアラルンプールの大手旅行代理店から出張で大阪へ来たウィリアム/J・C・チー(マレーシア)、ネパール難民モウサム/モウサム・グルン(ネパール)、ブローカーをしている在日韓国人リー/イ・グァンス(韓国)、香港から妻の祖国日本にやって来た張良/デイヴィッド・シウ(香港)、中国人観光客ラオファン/ゴウジー(中国)、日米にルーツを持つケンジ/望月オーソン(アメリカ)

――監督は、即興で演出するスタイルを続けておられますね。

大まかな設定を決めて、こういうセリフを話してほしいと話して、それぞれの役者さんに自分の言葉で話してもらいます。彼らの演技のアイデアももらいながら、現場で修正していくスタイルです。

今回の映画は登場人物だけでなく、僕にとっては大阪の街も主役です。

行くあてもなく徳島の田舎からトランク一つで大阪に出てきたマユミ(兎丸愛美)

昔のものと新しいものが共存しているノスタルジックな中崎町を中心に、半径3キロ圏内のキタの街の様々な表情を見せたいと思っていました。天六の景色と北新地の景色、淀川の景色は全部違います。でもそれは全部半径3キロの中。そこに、様々な街の表情がある。

阪急電車もあれば、JRも新幹線もある。空港へ行くバス、上にも飛行機が飛んでいて、行ったり来たりして様々なことが動いている。動いている中で、街も、人と人との関係も変わっていく。そういう表情を持った街としてキタを撮りたいと思いました。

また、中崎町には戦前からの古い家やアパートもあるし、新しく開発されたものもある。開発が進んでいくと、建物が取り壊されて駐車場になったり、おしゃれな美容室ができたりします。都市開発に飲み込まれていく前の2019年を切り取った貴重な映画になったと思います。

――安治川の河口の水門を、海側から初めて見ました。

あそこも大阪への扉なんです。

――進行する物語にリアリティーがありながら、大阪の街が美しいのが印象的です。一方、登場人物たちは、それぞれ自分のことで精いっぱい。

それぞれのポリシーがあって、決して悪い人たちではないけれど、周りを利用の対象としか見ていない。でも、いとおしい存在です。

――お店を開くことを目標にしているネパール難民モウサムは、料理人として働いている店の売上金を盗ったのではと疑われました。

あれは盗ってないですね。外国人を疑うのは日本人のステレオタイプな反応です。

日本にいる外国人はみんなそうですが、銀行に預けないで最後のお金を手元に置いています。それは、親から、あるいは親戚からもらったお金かもしれません。それをすごく大事にして手元に残しているのです。

最初に大阪に来た時は、日本は先進国だなと思いましたが、日本は島国でよその者に対して排他的。今もそれは変わらないが、これからいかにオープンにしていくかが課題だと思っています。最近、日本に住んでいる外国人は戻ってきています。実習生も留学生も戻ってきて、コンビニで働いている外国人はコロナの前よりも増えているように思います。そんな今だからこそ、この映画はぜひ、たくさんの人に見てほしいと思います。

「Come&Goカム・アンド・ゴー」公式サイト https://www.reallylikefilms.com/comeandgo

©️ cinema drifters

【ミニ情報】12月18日(土)からシネ・ヌーヴォでは「カム・アンド・ゴー」公開記念として大阪3部作を取り上げるリム・カーワイ監督の特集上映がある。

シネ・ヌーヴォのサイトはコチラ http://www.cinenouveau.com/index.html




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