兵庫県立芸術文化センターは「詩」をテーマにした新企画「100年の詩の物語」をスタートする。第1弾は、劇団MONO代表の土田英生が作・演出を手掛ける朗読劇「アネト~姉と弟の八十年間の手紙~」。“神戸の詩人さん”として親しまれた竹中郁の詩を織り込み、互いを知らずに兵庫の南と北に離れて暮らす姉と弟、二人の人生と情愛を描く。
神戸で暮らす女性の元に届く一通の手紙。それは豊岡に住む“弟”からの手紙だった。女性は幼少期に養子に出されていて、弟とは顔を合わせた記憶がない。そんな姉と弟の80年にも及ぶ手紙のやり取りを通して、時にすれ違いを経ながらも、深いところで心を通わせていく過程を言葉で刻む。
姉役を演じるのは、近年は女優として活躍が目覚ましい南野陽子。弟役には小説や戯曲の朗読にも定評がある林田一高(文学座)を迎える。ともに兵庫県出身。ご当地の空気感を知る二人が、物語に一層の深みを与える点も見どころだ。
土田は企画の意図について、「自分も55歳になって人生を感じるようになりました。一人ひとりが抱えているものや広がりを考えるとたまらなくなります。こっそり会わないまま、節目の時にお互いに手紙を出し合った姉と弟の人生の断片を感じてもらいたい」と語る。
南野と林田の手紙は土田が書き下ろし、関西で活躍する男女俳優8人の「朗読アンサンブル」が竹中郁の詩の朗読を手紙の間に挟んで舞台は進む。「朗読はミュージカルでいうと歌の部分にあたります。活きのいい俳優たちが文字を読むとどうなるだろう。従来の演劇ではできない表現を発表したい」と意気込む。
竹中は1904年神戸市兵庫区生まれ。第二神戸中学校(現在の兵庫高校)在学中に、北原白秋、山田耕筰主宰の「詩と音楽」に投稿。新進作家として早くから注目され、1932年刊行の詩集「象牙海岸」の中の「ラグビイ」は、モダニズム詩の代表的成果の一つとして評価されている。戦後は神戸・阪神間の学校の校歌を数多く編み、児童詩の指導育成にも力を尽くした。
竹中の詩の魅力を土田は「竹中レンズ」と例える。「眼の前のあるものの見え方が全然違う。何でもない瞬間の切り取り方がすばらしい。目の前にあるものがどうしてこう見えるのか。化学変化を楽しみながら準備をやってます」
伊丹市出身の南野陽子は芸術文化センターに久しぶりの登場。「朗読劇はミニマムな表現が求められるだけに、二人の普段とは違う魅力で出会えるのが楽しみです」と土田。凜(りん)と綴られる人間模様の中に、神戸・阪神間らしい光と風を感じる新しい朗読劇の誕生に注目だ。
11月23日(水・祝)14時から、兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール(阪急西宮北口)。一般3,500円、U‐25チケット1,500円。℡0798・68・0255、芸術文化センターチケットオフィス(10~17時、月曜休み)。