3人が現在地から発信した くるり14thアルバム制作過程を追った「くるりのえいが」10/13から3週間限定公開&デジタル配信

「くるりのえいが」先行上映会 in 京都。上映後の舞台挨拶=10月12日、MOVIX京都で

1996年、立命館大学の音楽サークル“ロック・コミューン”に所属していた岸田繁(Vo&Gt)、佐藤征史(Ba)、森信行(Dr)が結成したロックバンド「くるり」。98年10月にシングル「東京」でメジャーデビュー後は「古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド」として活動してきた。

そんな「くるり」の初めてのドキュメンタリー映画「くるりのえいが」(佐渡岳利監督、102分)が10月13日(金)から3週間限定公開&デジタル配信されている。ゆかりの京都で行われた12日の先行上映会では150席×2回上映が完売。ファンらが詰め掛け、映画と上映後の舞台挨拶を楽しんだ。

 

「くるりのえいが」とは?

©2023「くるりのえいが」Film Partners

波に洗われる小石を映し出していたスクリーンが、2002年に脱退した森を含むオリジナルメンバー3人が車座になって話し合うシーンに変わる。「おじさんの同窓会にはしたくない」。その言葉にうなずき合った3人がスタジオでセッションを始めた。

まだ曲になる前の断片的なフレーズ。岸田が思いついたアイデアを、佐藤のベースが、森のドラムがそれぞれにつかまえながら音を発していく……。

2022年10月、伊豆スタジオに集まった3人が新たな音楽を生み出していく過程は、誰も見たことがない創作現場のスリリングなやりとりをつぶさに描き出す。

音楽関係者の間で「おいしい」と評判の伊豆スタジオの食事を一緒に食べたり、海岸を散歩してリフレッシュしたり……。今だからこそ、仲間と集まって過ごす時間が、かけがえのないものであることを思い出させる。

23年2月28日、カメラはスタジオを出て50周年を迎えた京都・拾得でのライブへ。50周年記念のTシャツに身を包み「尼崎の魚」や新曲「California coconuts」などを熱演。時折、デビュー当時の懐かしい映像が挟み込まれる。

再びスタジオに戻った3人は、曲づくりに没頭。最後に編集を経て出来上がった曲が披露され……。

 

京都での先行上映後、なごやかに舞台挨拶

約20分間のトークの間、客席は温かなムードに包まれた
岸田繁

岸田 曲づくりにはいろいろな方法があります。今は一人でコンピューターに向かってでも音楽制作ができる時代だし、それを否定するつもりはないけど、人と集まって音楽をつくることって楽しいなという気持ちを素直に感じられました。

 先日、梅小路公園の「京都音楽博覧会2023」(10月8日、9日)のステージで演奏しました。音博に出たのは3回目で、くるりを辞めた後も3人で演奏することはありましたが、レコーディングというとまた違いますね。3人で音楽をつくっていくのはインスピレーションの仕掛け合いのようで、すごく楽しかったです。僕がいなくなってからの2人の進化が新鮮でした。

佐藤 森さんは昔から瞬発力がすごい。4小節のギターリフが流れてきただけで、疑いなく「これ、正解なんです」と叩き出してくれる。だから曲が進んでいく。今回は曲が生まれた瞬間から録音するまでが短かったけれど、曲の良さをみんなが忘れていないうちにできたのが一番良かったことかなと思います。持ち帰って一晩それぞれに考えたりすると、最初の良さがわからなくなってしまうから。

岸田 今回、「感覚は道標(みちしるべ)」という14枚目のアルバムを作りました。反響も少しずつ届いています。僕は曲ってちょっとずつ育っていくものだと思っているのですが、このアルバムは最初に祝福していただいたという感覚を持っています。

佐藤征史

 くるりっぽさって、変化していくことに貪欲なことなのかなと思う。

映画には曲がオギャーって生まれた瞬間が入っています。それをまず楽しんでいただいて。アルバム収録曲になると、そこからまた、ちょっと成長している。これからどんどん大人になって……。

岸田 ぐれんようにせなあかんな(つぶやき)。

佐藤 音博では森さんも参加するツアーも発表しました。タイトルは……

 あ、何だっけ?

佐藤 自分が付けたんでしょ⁉ 過去に「チミの名は」ってツアーも一緒にやりましたよね。

 そうそう。「ハードにキマる!つやなし無造作ハッピージェル」!

森信行

佐藤 (笑)

岸田 今回のアルバムを作って芽生えたものがあります。それがどう成長していくのか。作者である自分たちも、それを見守る過程で得るものがあるだろうけれど、心境としてはケセラセラ、なるようになる、ですね。

この作品は映画と言いつつ音楽作品でもあるので、繰り返し見ていただけると、いろいろな発見があるのではと思います。長く付き合ってやってください。

 

舞台挨拶後の個別取材

――出来上がった映画を見ての感想は?

岸田 こんな映画を作ろう、というコンセプトはざっくりとはありましたが、結果的に私たちの音楽制作の様子を追いかける内容になりました。作品が完成して、誇らしいような気持ちにもなりました。この映画はミュージシャン、バンドをやっている人、何人かで何かを始めようとしている人には何らかのヒントになるような映画になったんじゃないかなと思います。

佐藤 撮影に入る時、落としどころを決めないでスタートしたので、正直、どういう映画になるのかはわからなかったです。出来上がってみたら、きっかけのアイデアから、曲がちゃんと作品になるまでを追いかけてくれる映画になっていました。面白いし、誇らしいし、曲に対しても「曲も喜んではるんやろな」みたいな感想を持てました。

 作っている時にフォーカスされていて、すごく遊びのような雰囲気もあるんですが、みんなが集中している時の、その集中の仕方が「やっぱり音楽好きなんやな」と。好きということが、すごく原動力になっていて。そこにフォーカスされている映画になっているので、いいもんができたな、と思います。

――映画の中では「ドライブ」という仮題だった曲が「In Your Life」になりました。

岸田 映画に映っているのは大体6合目辺りまでですね。アルバムが完成したのは8月の前半でした。伊豆スタジオで撮ったものが90%ぐらい。あとはボーカルとかを京都や私の仕事場でやっていきました。

佐藤 タイトルだけでなく、実際に歌ってみて、歌詞の意味や言葉の響きなどでちょっとずつ曲が変わっていったりすることも普通です。

――最初に「おじさんたちの同窓会にはしたくない」とおっしゃっていた。その時に皆さんがイメージされていたものは?

岸田 昔の仲間、ある意味の信頼関係のある人と集まって何をするのか。3人で活動していた時の実績も残っているし、そこが自信につながってもいます。

だけど、僕たちはロックバンドで、現役でそれぞれ活動している音楽家です。音楽は時間芸術なので、0分00秒から与えられた時間の中で、物理的な時間の経過を使って、今この場で思っていることだけでなく、過去から数えてどうだったか、未来がどうなるか。ほかの時間について表現することができます。

楽曲そのものは、時間軸をうまく変えていけます。では演奏する側はどうなのか。久しぶりに会った、感覚的に懐かしい。「こういうことをやろう」という強い気持ちは、現在地点がしっかりしていないと、過去のことも未来のことも語れない。現在地で何をするか。

この先どういうものを作るか。過去どういうものをやっていたか。それらはあくまでも参照として「やったことのないことを今やりましょう」というのが確実なテーマとしてあったと思います。

佐藤 結果的に僕は、アルバムができたということが、一番同窓会にならなかったことを示していると思っています。映画のための音楽とか、そこで生まれたものが2、3曲だったりすると「今の自分たち、これでした」と胸を張って言えない気がしていました。

撮影に入って、自分たちがスタジオに入って「これは、アルバム1枚いけるんじゃないか」というところで目標が決まった。「くるり」という看板があって、ニューアルバムを作れたというのが、今のくるり以外の何物でもない。同窓会じゃなかったという感覚かなと思います。

 当時やろうとしていたことがあって、その当時にやっていたことを思い出して、その当時の感覚でやるというのは、進歩していないというか、むしろ退化してマネっこしているだけでしょう。当時できなかったことを、今の自分たち、今の時代の空気の中でやったら、同じような題材を扱ったとしても、昔とは全然違う。ただ、聴いている人にどこまで伝わっているかはわからないですけれど。でも僕は、そこはやっていて面白かったと思いますね。

――アルバムのタイトルは「感覚は道標」。皆さんの感覚は、昔と同じところも変わっているところもあると思うのですが、映画もアルバムも先程岸田さんが言われた「現在地で何をするか」を問う中で、見事に結実していると思います。見るたびに聴くたびに新しい発見があるのではないでしょうか。ありがとうございました。

 

「くるりのえいが」公式サイトはコチラ https://qurulinoeiga.jp/

くるり アーティストサイトはコチラ https://www.quruli.net/

 




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