2月9日(金)から全国で公開される2021年のエストニア・イギリス合作映画「ファイアバード」(原題Firebird、107 分)は、昨年3月にエストニアに同性婚法案を成立させる原動力になったといわれる作品だ。エストニアは現在、世界で35カ国目の同性婚承認国となっている。日本公開に合わせて、ペーテル・レバネ監督と、共同脚本・主演のトム・プライヤー、同じく主演のオレグ・ザゴロドニーが来日し、東京など全国5都市で舞台挨拶を行う。関西での舞台挨拶は2月10日(土)なんばパークスシネマ(シアター5で14:30の回上映後)、2月11日(日・祝)MOVIX京都(シアター11で12:00の回上映後)。
「ファイアバード」はロシアの無名俳優セルゲイ・フェティソフが書き遺した回想録「ロマンについての物語」を、PET SHOP BOYS “Together” やMody “Wait for Me” などのミュージックビデオ(MV)のディレクターや、BBC ワールド制作のライブドキュメンタリー「Robbie Williams:Fans Journey to Tallinn」の監督・プロデューサーとして知られるエストニア出身ペーテル・レバネ監督が映画化。タイトルの「ファイアバード」は、火・熱・太陽の象徴である伝説の“火の鳥”のことだ。永遠の命と大きな愛の力を宿すが、その圧倒的な強さゆえ、触れると火傷をすることもあるとされる。
主演の2人は東西ヨーロッパの新星俳優。セルゲイ役のトム・プライヤーは英国出身で「博士と彼女のセオリー」(2014年イギリス)、「キングスマン」(2021年アメリカ)で注目された。ロマン役のオレグ・ザゴロドニーは、ウクライナ・キーウ出身の正統派二枚目俳優でモデルでもある。映画は「ブロークバック・マウンテン」(2005年アメリカ)や「アナザー・カントリー」(1984年イギリス)を彷彿とさせる“秘められた愛” を、繊細かつ壮大なスケールで描いている。
【Story】東西冷戦下の1970 年代後期、ソ連占領下のエストニア。モスクワで役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイ(トム・プライヤー) は、間もなく兵役を終える日を迎えようとしていた。そんなある日、パイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー) が、セルゲイと同じ基地に配属されてくる。セルゲイは、ロマンの毅然としていて謎めいた雰囲気に一瞬で心奪われる。ロマンも、セルゲイと目が合ったその瞬間から、体に閃光が走るのを感じていた。写真という共通の趣味を持つ二人の友情が、愛へと変わるのに多くの時間を必要としなかった。しかし当時のソビエトでは同性愛はタブーで、発覚すれば厳罰に処された。一方、同僚の女性将校ルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)もまた、ロマンに思いを寄せていた。そんな折、セルゲイとロマンの関係を怪しむ上官が、二人の身辺調査を始めるのだった……。
【映画の成立過程と反響】ペーテル・レバネ監督はかねてから同棲婚を母国に認めさせるための様々なロビー活動を行っていた。2011年のベルリン国際映画祭で彼は見知らぬ男に声をかけられた。「この本を読んでもらえないか」。表紙に「ロマンについての物語」と書かれたその本を一気に読み終えたペーテルは、すぐに映画化を決めた。それほどに、無名の俳優セルゲイ・フェティソフが綴ったこの回想録は、彼の心を深く突き動かしたのだった。
ペーテルは2014年に、俳優のトム・プライヤーと知り合い、意気投合。彼らは多くの時間をかけてセルゲイにインタビューを重ね、脚本の準備を始めた。2人はセルゲイのことを知れば知るほど、この企画にのめり込んでいった。「セルゲイの生き方は愛の力そのものであり、勇気と歓びと人生への驚きを呼び起こす――。
こうして3人の共作によって脚本は完成した。ところが、ペーテルとトムの元に想像もしなかった知らせが。2017 年、セルゲイが急逝。65 歳の若さだった……。
4年後の2021年、「ファイアバード」は、ペーテル、トム、そしてセルゲイの思いを乗せて、ようやく完成に漕ぎつけた。本作がエストニアで初めてのLGBTQ映画として一般劇場公開されると、コロナ禍にも関わらず大ヒットを記録。同時配信も行った結果、同国で公開されたすべての映画の中で4番目に収益を上げた作品となった。
大きな反響を呼んだ本作の公開から2年後の2023年3月には、エストニアの国会で悲願の同棲婚法案が可決。2024年1月から施行された。同性婚の承認はバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)のみならず、旧ソ連圏では初めてだ。
【関西での公開劇場】なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX京都、kino cinema神戸国際、MOVIXあまがさき
公式WEBサイト www.reallylikefilms.com/firebird