昭和チックなカウンター居酒屋で深夜の土手煮
【やみつき鵺】西宮市・甲子園口
JR甲子園口駅南の商店街にあるカウンターだけの小さな居酒屋。明け方まで営業しており、遅い時間でも一人でふらっと行ける地元民にとって有難い店だ。新鮮な魚、黒毛和牛、そしてパスタや焼き飯など、ちゃんとした料理が味わえるとあって、日付が変わると仕事を終えた同業者が集まってくる店でもあるのだ。
甲子園口の通称「ほんわか商店街」。昭和の雰囲気を残すビルは、吹き抜けに面して雑多な店が軒を並べている。居酒屋、スナック、エステ、ブティック、学習塾と業種は多様だ。おまけに地上3階、地下3階というより、中2階、2階、中3階、3階と言った方がよさそうな建て方。一番下のフロアには、かつての噴水の名残りがあって、レトロ建築マニアにとってはたまらない建物に違いない。ビル全体に流れる懐かしい気配を感じながら、今日の目的地、1階にある「やみつき鵺」ののれんをくぐる。
夜になってもまったく気温が下がらない日、「とりあえずビール」と言う声に力がこもる。アテの造り盛り合わせは、マグロ、カンパチ、コブダイだ。オーナーが毎日市場で選ぶ魚は、寿司屋が求めるものと同レベル。コブダイの甘みに、ビールのほろ苦さがよく合う。テレビのニュース映像を見ながら、ビールを飲み、少しずつ造りを食べていると、一日の疲れがリセットされていくようだ。ま、暑さ以外は疲れるような出来事はないのだけれど…。
黒板に書かれているメニューはいろいろ。黒毛和牛は希少部位のミスジにシマ腸があった。実は近くに系列の焼肉屋があるため、特上和牛の端肉が入ってくる。だからとってもリーズナブルに上質な肉を食べることができるのだ。それを知っている人はここで肉系を必ず食べる。で、今夜はどて煮にする。味噌のコク、とろとろの甘い肉の味わいは、素材の良さに加えて丁寧な下処理や繊細な味付けがよくわかる。同店で最も多く出るメニューだと聞いて納得する。
廣濱さんが一人で料理と接客をするこの店は、一人客でもとっても居心地がいい。手が空いている時は、相談すれば黒板にない料理も作ってくれる。実は、何年か前に別の店で彼を取材したことがあった。その時に、当たり前のことだけど、と前置きして、「ちゃんと料理した美味しいものをお酒と共に味わってほしい」と言っていたことを思い出した。きっと志は変わっていない、そんなことを考えていたら、女性が一人で「初めてなんですが、一人でもいいですか?」とのれんをくぐってきた。「もちろん!」と廣濱さんの明るい声が響いた。
◆ MENU
生ビール400円
焼酎450円~
造り盛り合わせ1200円(※内容によって変わる)
どて煮680円
◆ Data
やみつき鵺(やみつきや)
電話:0798-63-8328
住所:兵庫県西宮市甲子園口3-4-20
営業:18:00~翌05:00
休み:日曜
◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 美味しい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/