旧知の書家・祥洲さんから、思いがけないメールが届いたのは去年の夏の初めだった。
「私の仕事を少しだけですが紹介してくれるという出版物の依頼が来ました。なんでも日本のデザイン書道家をまとめたもので、掲載図版は私が選んでいいとのこと。あれこれ考えたのですが『朝日新聞広告特集2001年』の『炎』をどうしても掲載したいと考えています」……
ホームページの会社情報でも紹介しているように、アサヒ・ファミリー・ニュース社はフリーペーパー発行業務のほかに、朝日新聞広告特集をはじめとする各種制作物も請け負っている。今回、祥洲さんから掲載の申し出があった広告特集は、37年に及ぶ私の会社員人生でも印象深かった仕事の一つで、紙面制作のディレクター兼ライターとしてかかわった。2001年6月6日、第49回全日本広告連盟京都大会[主催=(社)全日本広告連盟、主管=京都広告協会]の開催に合わせた別刷4ページの広告特集で「コラボレーション」を全体のテーマに編集・制作したものだ(受注した仕事について通常は「こんな仕事をした」と公にすることはないのだが、私自身昨年4月に定年を迎えてシニアディレクターになったこともあり、関係者の皆様、今回は特別に“時効”としてお許しくださいませ)。
新聞社サイドの当時のアートディレクターに連絡を取り、担当部署に掲載したい旨を申し入れ、「作家本人の著作物なので問題なし」と了解を得た。その後、しばらく忘れていたのだが、いよいよ年末に出版されると聞いたのは、毎年恒例の秋のグループ展で寺町通のギャラリーに駆け付けた時だった。
12月21日に立派な本が発売された。厚さはなんと約28ミリもある。『日本のデザイン書道家 筆文字デザインの最前線』(久木田ヒロノブ編、A4判並製、368ページ、和英表記、発行=マール社、税別5,800円)=写真右。第一線で活躍する書家・筆文字クリエイターの作品を一挙に集めたもので、眺めていて飽きない。この文字は、この人の作品だったのかという発見もある。
巻頭言は現代書家・岡本光平さんの「デザイン書道に思うこと」。続いて編者の久木田ヒロノブさん、祥洲さんら11人の寄稿と作品を集めた「筆文字を語る」。そして今、筆文字デザインの世界で活躍する132人の作品や使用事例がたっぷり紹介されている。
祥洲さんは筆文字デザインも手掛ける書家として、古典に学ぶ大切さを常日頃から力説している。2月24日(日)まで東京国立博物館で開催中の特別展「顔真卿(がんしんけい) 王義之(おうぎし)を超えた名筆」にも駆け付け、手に入れた図録を手本に臨書に励んでいるという。「顔真卿展で、安史の乱の犠牲になった親族への想いを綴った日本初公開の書『祭姪文稿』を観ました。1200年以上の歳月を経ても決して色あせないこの書は、戦乱の世の手鑑。日々、模写を繰り返していますが全く書けません。でも今より一歩でも半歩でも書の道の歩みを進めるために決して諦めず学び続けたいと、わくわくして書いています」
そしてさらに、こう続けた。「私の基盤は古典。日々、伝統書をこよなく愛し学び、現代美術としての書の可能性を追い求め、そしてデジタル作品にも筆文字デザインにも取り組みます。ですからデザイン書道家ではありません(笑)。しかし、そういうジャンル分けのようなことに目くじらを立てたりする必要もないと思うのです」
祥洲さんが指摘する通り、脈々たる書の伝統があってこそ現代の書は存在している。しかし、名品と呼ばれる古典の姿をそのまま写すだけでは、現代の書とは言えない。古典を学びながら、いかに自らの独自性を追求していけるか。そこに書家としての真価が問われることになるだろう。
「現代日本で広まる筆文字デザインは、まだ始まったばかりです。これからどのように進化していくか楽しみですね。もし筆文字デザインに取り組みたいと思うなら、本書は良き資料になると思います。ただし、独りよがりの低俗で勝手な書にならないように、伝統書を学ぶ姿勢は決して忘れないで欲しいと思います」。人を魅了する力を持つ筆文字デザインの現在を知ることができる1冊、興味のある人はぜひ手に取ってみてはいかが?
(大田季子)
【お知らせ】2019年に開催予定の祥洲さんの作品に出合える展覧会 会場はいずれも「ギャリエヤマシタ2号館1F」(京都市中京区)寺町三条上がる西側
○ 3月21〜24日「文房四寳の世界」四寳菴企画展 招待作家(五十音順):片山雅美 (陶芸)+祥洲(書)+橋本烽玉 (書) ※書道用具展示販売と招待作家の小品展。(祥洲さんは3-5点の出展を予定)
○ 7月16〜21日 祥洲/墨翔会メンバー有志による書作展 「さまざまな書のカタチ~私の好きな古典~臨書展」
○ 10月15〜20日 祥洲プロデュースによるグループ展「Open Mind」 出品者:五十棲 環、奥田百恵、尾関彩子、鈴木裕子、吉田和美、応援出品:祥洲 |