大阪市立東洋陶磁美術館で開催中の特別展「文房四宝 清閑なる時を求めて」は、多忙な日々の中で、ひととき心安らかに過ごせる静かな時間を持つことの大切さを思い起こさせてくれる展覧会だ。
「文房四宝」とは、皇帝をも含めた中国の高級官僚・文人たちが、その書斎(文房)で使う文房具のうちの「筆・墨・硯・紙」の4つの品を指す。特別展の展示点数は約150件。「書聖」と呼ばれる王羲之が活躍した東晋時代(317-419)以降、中国では毛筆によって文字を書く文化が広まり、唐時代(618-907)には、文人たちが書を読んで知識を積み、修練する書斎を「文房」と呼ぶようになったという。
現代でも万年筆など気に入りの文房具を身近に置くことにこだわる人々がいるように、古人も研ぎ澄まされた美意識で選び抜いた道具を文房に置いた。その空間に流れる清澄で静謐(せいひつ)な空気は、文人たちにとって煩雑な政治の世界から離れて内なる自分と向き合うことができる貴重な時間だったに違いない。
同時開催の特集展「朝鮮時代の水滴」の展示とともに、展示品の一つひとつに、持ち物にこだわる“男子”の心模様を想像して微笑ましい気分になった。
一昔前、世の男性たちは「マイホームに書斎が欲しい」とあちこちで発言していたが、近年あまりその声を聞かなくなった。すでに手に入れているからか、それとも……? 帰路にはそんなことが頭をかすめる展覧会だった。(大田季子)
【開催概要】2019年6月30日(日)まで※月曜休館(4月29日、5月6日は開館)、5月7日火曜は休館。開館時間は午前9時30分~午後5時※入館は閉館の30分前まで。観覧料(館内の平常展を含むすべての展示を含む):一般1,200円、高大生700円 【問い合わせ】大阪市立東洋陶磁美術館 TEL.06・6223・0055 |
特別展の公式ホームページはコチラ http://www.moco.or.jp/exhibition/upcoming/?e=528