東洋陶磁美術館の特別展「文房四宝 清閑なる時を求めて」古人はなぜ文房具にこだわったのか?

 大阪市立東洋陶磁美術館で開催中の特別展「文房四宝 清閑なる時を求めて」は、多忙な日々の中で、ひととき心安らかに過ごせる静かな時間を持つことの大切さを思い起こさせてくれる展覧会だ。

 「文房四宝」とは、皇帝をも含めた中国の高級官僚・文人たちが、その書斎(文房)で使う文房具のうちの「筆・墨・硯・紙」の4つの品を指す。特別展の展示点数は約150件。「書聖」と呼ばれる王羲之が活躍した東晋時代(317-419)以降、中国では毛筆によって文字を書く文化が広まり、唐時代(618-907)には、文人たちが書を読んで知識を積み、修練する書斎を「文房」と呼ぶようになったという。

班竹文房卓(はんちくぶんぼうたく)清時代(高さ33.0㎝×奥行き44.0㎝×幅95.0㎝)。卓上中央の硯は半月形の硯を芭蕉の葉でくるみこんだような意匠の蕉葉硯(しょうようけん)清時代中期(縦15.8㎝×横8.0㎝×高さ2.0㎝)
朱漆卓(しゅうるしたく)清時代(高さ29.5㎝×奥行き45.3㎝×幅91.0㎝)。卓上左に飾られている筆は明時代後期の堆黒具利文筆(ついこくぐりもんひつ)。卓上右の海月清輝硯(かいげつせいきけん)は原石の姿を生かした清時代初期のもの
琥珀嵌黄楊木墨床(こはくがんおうようぼくぼくしょう)清時代中期(高さ1.5㎝×縦3.9㎝×横6.7㎝)。墨床は磨った墨で机を汚さないために使われた道具
青白磁亀形水滴(せいはくじかめがたすいてき)宋時代(高さ4.2㎝×縦6.6㎝×横4.9㎝)。上部の甲羅の部分が水滴で下部に7つの印章を収める。景徳鎮窯製

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現代でも万年筆など気に入りの文房具を身近に置くことにこだわる人々がいるように、古人も研ぎ澄まされた美意識で選び抜いた道具を文房に置いた。その空間に流れる清澄で静謐(せいひつ)な空気は、文人たちにとって煩雑な政治の世界から離れて内なる自分と向き合うことができる貴重な時間だったに違いない。

 

竹の筆帽と筆管に杜甫の「飲中八仙歌」を刻した「竹刻飲中八仙歌筆(ちくこくいんちゅうはっかせんかひつ)」。明時代中期
半月形の墨「潘嘉客銘大国香(はんかかくめいだいこっこう)」明時代。天啓元年(1621)。写真は裏面の獅子。表面に「天啓元年潘嘉客造」「大国香」と篆書で書かれている

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時開催の特集展「朝鮮時代の水滴」の展示とともに、展示品の一つひとつに、持ち物にこだわる“男子”の心模様を想像して微笑ましい気分になった。

 一昔前、世の男性たちは「マイホームに書斎が欲しい」とあちこちで発言していたが、近年あまりその声を聞かなくなった。すでに手に入れているからか、それとも……? 帰路にはそんなことが頭をかすめる展覧会だった。(大田季子)

【開催概要】2019年6月30日(日)まで※月曜休館(4月29日、5月6日は開館)、5月7日火曜は休館。開館時間は午前9時30分~午後5時※入館は閉館の30分前まで。観覧料(館内の平常展を含むすべての展示を含む):一般1,200円、高大生700円

【問い合わせ】大阪市立東洋陶磁美術館 TEL.06・6223・0055

特別展の公式ホームページはコチラ http://www.moco.or.jp/exhibition/upcoming/?e=528




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カテゴリ: ライフ&アート