かつてテレビのドキュメンタリーなどで取り上げられたことを覚えている人もいるかもしれない。1990年代半ば、東京の片隅に様々な若者たちが集まって共同で子育てする「沈没家族」という場があった。そこで子育てされた本人、1994年生まれの加納 土さんの初監督作品「沈没家族 劇場版」が5月18日(土)から第七藝術劇場で公開される。
このユニークな映画が制作されたきっかけは、加納監督が20歳になった2014年に開かれた「沈没同窓会」だった。彼は「顔と名前がぼんやり一致する」大人や「全く誰だか見当もつかない」大人たちが語る「どうやら可愛らしい赤子」土くんの話を自分のこととは思えず、モヤモヤした気持ちが残ったという。そこで「沈没家族とは何だったのか」を武蔵大学の卒業制作ドキュメンタリーで取り上げることにして、かつて自分の面倒をみてくれた大人たちに会いに行った。90年代当時の映像などはNHKやフジテレビ、藤枝奈己絵さん(漫画家)、神長恒一さん(だめ連)から提供されたもので構成した。
ゼミ生だけが見るものと思って作った卒業制作だったが「PFFアワード2017」で審査員特別賞、「京都国際学生映画祭2017」では観客賞と実写部門グランプリを受賞。その反響を受けて今回新たに取材して20分余りを追加した劇場版を制作。4月の東京を皮切りに全国公開が始まった。
加納監督は言う。「沈没家族はゆるやかな共同体だったので、保育ノートはあるが名簿はなかった。保育に入ったことのある大人たちは大体50人プラスαといったところ。当時から『そんな風に子どもを育てるなんてかわいそう』という非難の声もあったようだが、今回、僕と一緒に沈没家族で育っためぐと再会した時、彼女は笑って『悪くないんじゃない』と話してくれた。そう。その肯定する思いは僕も同じ。沈没家族、悪くなかった」
映画公開以来、加納監督はできるだけ上映館に足を運び、観客たちと言葉を交わしているそうだ。「劇場で話を聞いていると、自分の家族の話をし始める人が多い。家族にはいろいろなカタチがある。沈没家族も確かにひとつの家族のカタチだったってことなのかな」
ワンオペ育児の大変さが話題になり、父親の育児参加が求められる現代。閉じた家族関係の中で育児の問題を解決しようと考えず、こんなふうに生きた家族もあったことに、目の前が明るくなるような気持ちを抱く人もきっとあるだろう。
【お知らせ】第七藝術劇場(十三)では、初日5/18(土)15:20の回上映後に加納監督のトークショーを開催予定。翌5/19(日)は14:35の回上映後のトークショーは加納監督と映画『さとにきたらええやん』監督の重江良樹さんが登壇予定。
京都・出町座(出町柳)でも近日公開予定。
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