10月1日に京都・嵐山に新しい美術館がオープンした。「100年続く美術館」をコンセプトにした福田美術館だ。京都に生まれ育ち、事業を興し発展させてきたオーナー福田吉孝氏が「地元に恩返しがしたい」と、古くから多くの貴族や文化人に愛され、優れた芸術作品を生み出す源泉となった景勝地に設立した和モダンの外観も美しい美術館だ。
同館が所蔵するコレクションは、江戸時代から近代にかけての主要な日本画家の作品を中心とする約1,500点。中でも京都画壇の作品には特に力を入れている。狩野探幽、円山応挙、伊藤若冲、上村松園……あまり美術に詳しくない人でも名前は知っている著名な画家たちの名画、国内有数の竹久夢二コレクションを有している。
開館を記念した「福美コレクション展」は、会期を11月18日(月)までのⅠ期と11月20日(水)~2020年1月13日(月・祝)のⅡ期に分けて、ほぼ完全入れ替えで約80点を一挙公開するという。
展示室は「蔵」をイメージ。1階ギャラリー1の自動扉が開くと、まず目に飛び込んでくるのが、竹内栖鳳の「金獅図」(1906年)。鑑賞者の目の高さに口を開けて威嚇する百獣の王の迫力に度肝を抜かれていると、隣には密林の王「猛虎」(1930年)が。勇猛な動物たちの生き生きとした表情を思わず見比べながら見入ってしまう。
今回通期展示の横山大観「富士図」(1945年ごろ)は6曲1双の大作。日本の敗戦が決定的となっていった第二次世界大戦末から戦後すぐにかけて制作された作品なのだろうか。分厚い雲海の上にそびえる富士山と輝く日輪に、画家は何を託そうとしたのだろう。
夢二コレクションからは4点を展示。はんなりとした風情が香る美人画を見ながら思い出したのは、約40年前に何度か行ったことのある銀閣寺道近くの「夢二」という小さな居酒屋の奥で煙草をくゆらせていた老女将の姿。なで肩、柳腰の女将は夢二の描く美人とよく似ており、私たち学生は「きっと夢二ゆかりの女性に違いない」とささやき合っていた……。
ギャラリー1を出ると右奥にミュージアムショップ、夢二美人のトートバックや一筆箋、近ごろ人気のマスキングテープも4種類が置いてある。左奥のカフェは窓に向かった席が特等席だ。大きなガラス張りの窓から渡月橋がよく見える。
2階ギャラリー2で目を引くのは、通期展示の伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風」(1797年)。こちらも6曲1双の大作で、墨一色で描いた12羽のニワトリの生き生きとした表情と動き出さんばかりの姿に目が釘付けになる。
対面には若冲の“動”に対して“静”の6曲1双の世界が広がる。尾形光琳の「十二ヶ月歌意図屏風」(1699年以前)。琳派の萌芽を感じる貴重な初期作品と解説にある。
2階パノラマギャラリーには通期展示の洋画が7点(すべて通期展示)。マルク・シャガール「魔術師」(1968年)のほか、マリー・ローランサン3点、クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、アンリ・マティス各1点が飾られている。
一通り見て回ったのちも、もう一度見て回りたくなるような魅力的な作品ぞろい。紅葉シーズンには大変な人出となるだろうが、時間を見つけて足を運んでみたい美術館だ。
入場料は一般・大学生1,300円、高校生700円、小中学生400円、障がい者と介添人1人まで各700円。開館時間10~17時(入館は16時30分まで)。休館日は火曜(祝日の場合は翌日)、展示替え期間、年末年始。