国登録有形文化財の山本能楽堂(大阪メトロ谷町四丁目)が、相愛大学学長で僧侶の釈徹宗さんと新企画「能から見た日本の宗教」(全5回)を7月3日(日)からスタートさせる。
2年以上に及ぶコロナ禍で疲弊した心を癒やすために、能の力で何ができるのか――。
山本能楽堂は2019年から3年間、相愛大学の伝統芸能コーディネーター育成プロジェクトにかかわった。その縁で、代表理事の山本章弘さん(観世流能楽師)は昨年11月、釈さんと一心寺で新作能「慈愛 魂のゆくえ 人は死ぬとどこに行くのか」を共同制作して発表。声明に始まり声明に終わった能舞台は深い感動を呼んだという。
そして「能が持つ宗教性が、こんな時だからこそ必要とされている」ことを改めて感じたことが、今回の企画につながったという。釈さんは言う。
「中世から約700年続いてきた世界最古の現役舞台芸術である能には、宗教とともに歩んできた日本人の心、精神性が受け継がれている。それは、近世の自我とは無縁なもので、能楽師は、能の核に宗教性があることに対して自覚的で、手放さないできた。この世ならぬものの語りに耳を澄ます態度は、この世界は生きている者だけのものではないことを教えてくれる。過去の他者に思いを馳せることは、未来の他者に思いを馳せることにつながる。そこには大きな世界観がある。コロナで縮こまってしまった心を解き放つ、見えない世界への心の伸ばし方を、能が教えてくれると思います」
山本さんは「明治政府が神仏を分けてしまったが、本来、日本人は、カミもホトケも区別していなかった。お寺の除夜の鐘を聞いて神社に初詣に出かけることを、私たちは不思議だとは感じていません。最近、神仏分離を見直そうという機運を感じるが、今回の企画を通じて、能の中にある神仏習合の心を知ってほしい」と話す。
全5回の「能から見た日本の宗教」の日程と演目は下記の通り。
「比較的、起承転結のはっきりしている作品を選びました」と山本さん。
各日14時スタートで、上演前に釈さんが簡単な解説をし、上演後には釈さんと山本さんが約30分間のアフタートークを行い、会場からの質問にも答えるという。
7月3日(日) 能「雷電」
「太平記」「北野天神縁起絵巻」などを題材に、菅原道真が大宰府に左遷され憤死し、死後雷となって内裏に祟ったという逸話からつくられた能。文楽や歌舞伎の『菅原伝授手習鑑』に大きな影響を与えた。
8月21日(日)能「三輪」
奈良時代から平安時代前期の法相宗の僧・玄賓(げんぴん)僧都の説話と「古事記」や「日本書紀」にある三輪明神の神婚説話、さらに天岩戸神話が絡み、神道と仏教が習合していた中世の感覚を背景に作られた能。
12月11日(日)能「海士(あま)」
大臣・藤原房前は母の追善のため、母が亡くなったと聞く讃岐国志度の浦へ。現地で出会った一人の海人が、竜宮から命がけで珠を取り返した様子を語り、自分こそは房前の大臣の母、その時の海人の幽霊であると明かして、海底に消えていく。房前が法華経を読誦し供養をすると、海人であった母の霊は竜女の姿となって現れ、法華経の功徳によって成仏していった。
2023年2月12日(日)能「小鍛治 黒頭」
不思議な夢のお告げを受けた一條天皇は、橘道成を勅使として三條小鍛冶宗近に剣を打つように命じる。宗近は自分に劣らない相槌がいないことで途方に暮れていたが、神頼みをしようと氏神である伏見稲荷に参詣すると、少年が現れて……。神通力で変身した稲荷明神が宗近の相槌を勤め、見事に剣「小狐丸」が完成した。
2023年2月12日(日)能「竹生島」
竹生島詣に向かった醍醐天皇の臣下たちは志賀の里で、湖畔に一隻の釣り舟を見つけた。舟には漁翁と海士の女が乗っており、便乗した一行が竹生島へ渡り、案内されて弁才天の社殿へ向かったところ、漁翁と海士の女は「自分たちは人間ではない」と告白し……。天女の姿をした弁才天の神々しい舞と、波立つ湖面から現れる竜神がハイライト。
料金は各公演とも前売り3,500円、当日4,000円。
予約・問い合わせは山本能楽堂、TEL06・6943・9454へ。ホームページからも予約でき
山本能楽堂のホームページはコチラ http://www.noh-theater.com