画家・WAKKUNさん 生きる幸せを絵と言葉に託して
阪神大震災から30年 神戸で大規模個展

神戸で活動する画家・イラストレーターのWAKKUN(本名:涌嶋克己)さんの大規模個展「震災から30年 WAKKUNのもらった種とまいた種」が2月2日(日)まで、神戸市灘区岩屋中町4丁目のBBプラザ美術館で開かれている。ユーモラスで、味わい深い筆致で表現した墨絵や造形作品など約60点が並ぶ。1月14日(火)と27日(月)にはWAKKUNの旧知の音楽家2人によるライブもある。

一人ひとりの存在に温かい目を向けて制作を続けるWAKKUN(涌嶋克己)さん

WAKKUNさんは1950年神戸市長田区生まれ。22歳の頃から絵を描き始め、雑誌編集にも携わり、市内の絵本教室で長く教えている。日々の暮らしの中で心が動かされた人や出来事への思いを絵と言葉で和紙に表現するのがWAKKUNさん流。どの作品も一つひとつの出会いへの感謝と温もりにあふれ、見る人を大らかでやさしい気持ちにしてくれる。

1995年の阪神・淡路大震災は長田区の自宅で経験。大きな被害はなかったが、近くの県立高校に一時避難。復旧が続く工事現場の壁に絵を描いたり、各地でライブペインティングを行ったりして、傷ついた街を元気づけた。また、障がい者作業所の再建支援に描いたイラスト「ガッツくん」のTシャツは俳優がテレビドラマで着用して話題を呼んだ。WAKKUNさんは震災について「想像もしない不幸なことは起こるけど、しっかり前を向いて生きようと思った。地味だけどすぐ近くにある幸せの種を大切に育ていこうと感じるようになりました」と振り返る。

心温まる絵や言葉がさまざまな形で表現された約60点が展示されている

個展は、震災時に感じた、生きていることや人とのつながりの大切さや喜びを見つめ直そうと美術館が企画した。展示室でひときわ目を引く新作「二人の空気」(2024年)は、神戸市内の飲食店で隣り合った10代の二人の兄貴分と弟分のような仲間同士の親しい会話に着想を得て制作した。楕円やしずくなど様々な形を2体で1対になるように竹ひごで作り、和紙を貼ってパステルの柔らかな色を塗ってある。同じ空間にいる二人が言葉のキャッチボールで心を通わせる様子が感じ取れる。

「小雨まじりの福井の朝」はガソリンスタンドで男性が椅子に座っている姿を見かけ、「カワイイ!」と心が震えた際に感じた、人の存在そのものの尊さが綴られている。「グングングングンのぼってゆくゾ!」(1994年・2024年)は、空を自由に飛べることへの憧れと飛行機が戦争にも使われることへの疑問が飛行機の絵とともに記される。

「家来の一人もいない王様」(2024年)はWAKKUNさんがライフワークとする作品群の一つ。若い頃、デートで交わした女性との会話をヒントに、「人は誰の上でもなく誰の下でもない。それぞれが主人公で王様やから」と、優しくも力強く見る人にエールを送る。

WAKKUNさんは、会期中は展示室に滞在し、来場者とのふれあいを大切にしている

「街で出会う人は一人ひとりが自分の人生の主人公で、それぞれの役割を果たしています。震災の時にも感じたように、人間はそこにいるだけですばらしいんです。その思いをこれからも絵と言葉で表現していきたい」とWAKKUNさんは話している。

入館料は500円。大学生以下は無料。65歳以上と、障がい者と付き添い者は1名半額。月曜休館(1月13日は開館し、14日休館)。10~17時(入館は16時半まで)。℡078・802・9286。坂田明soloライブを1月14日(火)19時~、友部正人soloライブを1月27日(月)19時~、展示室で開く。定員60人。3500円。要予約(問い合わせを)。

(編集部追記)
※1月14日(火)の坂田明さんのライブは中止となりました。




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カテゴリ: ライフ&アート