11月2日、大阪市内で2018年度 第6回いのちのセミナー(主催:公益財団法人JR西日本あんしん社会財団 協力:西日本旅客鉄道株式会社)が開催され、高知県四万十市で在宅医療に取り組む医師、小笠原望さんが講演した。
過疎が進む四万十市で診療所「大野内科」を営みながら、高齢者への訪問診療にも力を入れる小笠原さんの日々は、ドキュメンタリー映画「四万十~いのちの仕舞い~」として映像化され、全国で上映。自身も「診療所の窓辺から」などの著書や連載エッセーで発信している。住み慣れた環境で最期を迎えたいと願う人と、その家族の思いに応える医療姿勢は広く共感を呼んでおり、この日も470人の聴講者が会場を埋めた。
講演テーマは「ひとのいのちも自然の中のもの~四万十川のほとりの診療所の物語~」。臨床歴40数年のうち、最初の20年を香川県高松市の中核病院で過ごし、1997年から自然豊かな四万十市で診療を行っている小笠原さんは、在宅で数多くの看取りを経験してきた。「往診車で四万十川の堤防沿いを行き来する日々の中で、季節ごとに咲く花や、そこに住む人たちのおおらかさを感じるようになりました。人間以外に目がいかず、『少しでも長く生かすこと』に必死だった都市部の総合病院では気づけなかったこと。医療者が自然の中に身を置くと、いのちへの見方が変わってくるのです。自然の風景と重ねてひとのいのちを感じるようになり、肩のちからが抜けました」
いのちの最期まで食べられて、痛まず、苦しまず、なじみの中で迎える死を、四万十では“いい仕舞い”と呼ぶ。当たり前のようだが、いのちには最期があることを前提にしたことばだ。「地元のひとたちは死ぬこと、仕舞うことを決してタブーにしません。患者さんを在宅で看取ってきて、ひとのいのちも自然の中のもの、という感覚が芽生えました」
病院で「余命2週間」と言われ自宅に戻った末期がん患者の訪問診療を続けたエピソードも。「本人の希望で点滴も痛み止めもやめると、次第に食べられるようになり、痛まなくなった。病院とは違い、自宅にはモルヒネが流れているのかも。こうしたケースは決してまれではありません。在宅医療を始めてから1年半後、なだらかにゆったりと最期を迎えられました」「本人とご家族の気持ちを聞き、時には言葉にならない気持ちを感じ取り、“いい仕舞い”を支えるプロデューサーの役割を果たしていきたい」
時にしみじみと、時にユーモアたっぷりの語り口で、聴講者の心をとらえた90分間の講演。「QOL=生活の質とはよくいわれますが、充実した最期をどう迎えるかも大切。都会と田舎で環境は違いますが、みなさんもどこかで頭に思い浮かべておいてもらえれば」。最後は、四万十川の夕焼けを見ながら小笠原さんもよく口ずさむ曲「赤とんぼ」を会場一体となって合唱した。「ぼくも泥くさく、いのちと向き合いながら、いのちを抱きしめながら、“いい仕舞い”を支える仕事を、これからも四万十で続けてゆきます」
公益財団法人JR西日本あんしん社会財団は、2005年に引き起こした福知山線列車事故の反省の上に立ち09年に設立。以来、「いのち」と向き合い、生きることの大切さ、生きる喜びを探す「いのちのセミナー」をはじめ、地域社会の安全構築にかかわる事業を通して、安全で安心できる社会の実現への貢献を目指している。 2018年度の「いのちのセミナー」は、“ひとのいのち 私のいのち を考える”を年間テーマとして年8回開催。今回小笠原さんの講演は第6回。今後の開催情報はこちらから。 |