戦禍に翻弄される幼子の存在に目を向けて~韓国映画「ポーランドへ行った子どもたち」公開中

10月6日(木)まで京都シネマ(阪急烏丸)で、14日(金)までシネ・ヌーヴォ(大阪メトロ九条)で公開中の韓国映画「ポーランドへ行った子どもたち」(78分)は、戦禍の中で子どもたちの心に生じる傷を深く考えさせられる映画だ。元町映画館(各線元町)でも11月5日(土)から11日(金)まで上映予定。タイトルは1950年代に北朝鮮から秘密裏にポーランドへ送られた朝鮮戦争の戦災孤児を指す。

チュ・サンミ監督

2018年の釜山国際映画祭で上映され、注目を浴びた本作の監督は1994年に俳優としてデビューしたチュ・サンミ。

96年百想芸術大賞の新人演技賞(演劇部門)受賞後、ハン・ソッキュ、チョン・ドヨンと共演した「接続 ザ・コンタクト」(1997)や、ホン・サンス監督の「気まぐれな唇」(2002)、イ・ビョンホン、チェ・ジウと共演した「誰にでも秘密がある」(2004)などの映画に出演。KBS演技大賞優秀演技賞を受賞した「黄色いハンカチ」(2003)をはじめ数々のドラマにも出演したが、「シティホール」(2009)以後、出産・育児のため演技を休止していた。

出産後に子どもへの愛着や不安のために産後うつを経験した彼女は、偶然目にした北朝鮮の孤児たちの映像をきっかけに、ポーランドへ強制移送された戦災孤児たちの記録を知った。

ユーラシア大陸を横断する列車で朝鮮半島からポーランドへ送られた孤児たち
孤児たちは修道院などで集団生活をし、ポーランド語をはじめとする教育を受けた
戦災孤児たちの思い出を語るポーランド人教師

自国も厳しい情勢下にあった1950年代、異国の孤児たちをわが子のように受け入れて育てたポーランド人教師たちを訪ねる旅を、チュ・サンミは、脱北の過去を持つ大学生イ・ソンと2人でたどっていく。ポーランドを訪問した2人は、今でも子どもたちを懐かしく思い涙を流す教師たちに出会う。だが、彼らを「ママ」「パパ」と慕った北朝鮮の子どもたちは、その後、青年期に朝鮮に送り戻されていた……。

 

脱北の過去を持つ大学生イ・ソン(左)とポーランドで孤児たちの足跡をたどったチュ・サンミ監督

朝鮮半島からポーランドへ、そしてまたポーランドから朝鮮半島へ。2度にわたる悲痛な分断を体験した孤児たちの存在は、今現在、私たちの世界で起こっている戦禍の中の幼子たちと地続きだ。

 

6月、東京から始まった日本公開を前に寄せたコメントで、チュ・サンミ監督は次のように語っている。

「1950年に勃発した朝鮮戦争により親を失い、傷を負った戦争孤児たちの話は、北東アジアの国々と歴史的に関わりのある話でもあります。現在進行形の傷、ウクライナでつらい思いをしている子どもたちもまた、しばらくすれば人々の記憶から消えてしまうかもしれませんが、共通する話だと思います。日本の観客の皆さんも、韓国・北朝鮮の隣国の市民として、またウクライナ問題が起こっている同時代の世界市民として『ポーランドへ行った子どもたち』を見て、『傷の連帯』を感じてもらえればと願います。

世界のどこかで今も起こっている、子どもたちに向けられたすべての『暴力』がなくなることを祈っています」

 

日々いろんな情報が飛び交う中で、忘れてはならない大切なことを思い出すために、映画館に足を運んでほしい。(大田季子)

©2016. The Children Gone To Poland.

 




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