“漫画の神様”手塚治虫の原点を題材にした兵庫県立ピッコロ劇団第63回公演『マンガの虫は空こえて』が、2月15日(金)~17日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールで上演される。
手塚治虫は1928年豊中市に生まれ、5歳で宝塚市に移住。大阪大学医学専門部で学び、在学中に漫画家デビュー。戦後日本でストーリー漫画を確立し、89年に60歳で死去するまで、子どもから大人まで幅広い世代に愛される膨大な作品を遺した。亡くなる直前まで病室のベッドで「マンガが描きたい」と言っていたと伝えられる。
今回上演されるのは、宝塚で過ごした少年時代をおもに描いた自伝的な3作品『紙の砦』『ゼフィルス』『ゴッドファーザーの息子』を原作に、ピッコロ劇団の島守辰明が脚本を書き、劇団太陽族の岩崎正裕が演出を手掛けるオリジナル劇だ。1月11日の製作発表会で製作陣と出演者たちが、上演に向けての熱い思いを大いに語った。
「幼稚園の頃から兄の影響で手塚漫画ばかり読んでいた」と大の手塚ファンを自認する島守が原案を作ったのは2013年。9稿目となった脚本を「やっと上演できる」と感慨深げ。演出の岩崎は、脚本段階から参加。「本人も手塚ファンのピッコロ劇団員の吉江麻樹さんから電話をもらって、一昨年から毎月1回、西宮北口の喫茶店で、島守さんと3人で企画を練っていった。毎回、島守さんの半端ない“手塚愛”を感じさせてもらえる楽しい時間だった」と振り返る。作品で描かれるのは、戦時色が濃くなった1943(昭和18)年から45(昭和20)年の終戦までだが、岩崎は「漫画的な要素も取り入れ、人間ドラマとしてちゃんと成り立っているので、後味は悪くないはず」という。
手塚の分身、主人公の大寒鉄郎を演じる三坂賢二郎は「脚本を読んで最初に感じたのは、まぶしさだった。大寒の純粋さ、一途さがまぶしい。僕たち30代の人間は、漫画は知っていても手塚の人となりは知らなかったが、彼が生涯追い続けた『生命の尊厳』というテーマが生まれた過程を全身全霊で演じたい」と抱負を述べた。
今井佐知子は『ゼフィルス』の蝶と『ゴッドファーザーの息子』の京子役。「原作本に描かれている2人の美しさと自分が違うので戸惑うが、戦時下を生きた京子さんを一生懸命演じたい」という。
大寒の親友だった明石を演じる孫高宏は「漫画のコミカルなタッチをどう肉体化できるか楽しみ。手塚の没後30年、平成も終わる年に昭和の戦争を振り返る意味もある。小学生にも楽しんでもらえる作品にしたい」。
脱走兵の恋人を男装してかくまう幸子を演じる野秋裕香は「大事な人を失っても生きていかなければならない使命感を持つ人物。熱いものをお届けできると思う」と話す。
本作はピッコロ劇団と関西俳優陣がタッグを組んで取り組むピッコロシアタープロデュース公演第10弾。明石の父を演じる隈本晃俊(未来探偵社、K’s倶楽部)は「原作を読んだら5コマしか登場していなかった」と軽く笑わせた後、「劇団員のスキルが高いピッコロ劇団との共演は8年ぶり。しばらく呼んでもらえていないのは、ひょっとして何かやらかしたのかなと心配になっていたところだった。何らかの形でみそぎが済んだのではないか」と話し、大爆笑を誘った。
隈本のほかの客演は、オーディションで選ばれた酒井高陽(ライターズ・カンパニー)、阿部達雄(イズム)、高橋映美子(Jプロダクション)、田米カツヒロ(舞夢プロ)、乃緑(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)、原田有里(バニラ モデルマネージメント)、吉本藍子(匿名劇壇)。『ゼフィルス』に登場する西の風の精は女優の竹下景子が声の出演をする。
アイホールのディレクターも務める岩崎とピッコロ劇団がタッグを組むのは今回が初めて。「演出面では、どのキャラクターも欠かせない群像劇になるので、ていねいに描きたい。芸術文化センターの舞台は間口も奥行きもたっぷりあるので、戦時下の色彩に乏しい場面と、宝塚歌劇のようなダンスのきらびやかな場面との対比も楽しみにしてほしい」と話した。
手塚治虫生誕90周年記念企画、兵庫県政150年記念、ピッコロシアター開館40周年記念。
【公演情報】2月15日(金)19時、16日(土)・17日(日)11時、16時開演(全5回公演)。兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール。全席指定。一般4,500円、大学生・専門学校生3,000円、高校生以下2,500円。
【問い合わせ】兵庫県立ピッコロ劇団 TEL06・6426・1940